その11 牛蒡の意地

文字数 500文字

「細いね、うらやましいよ」そんなことを言ってくるのは、由佳里ちゃんだ。健康的で明るい女の子。男子にからかわれている所なんか、見たことがない。それどころか、ちやほやされている。そっちの方が、よっぽど羨ましい。
 私の両親は共に細身で、しかもお母さんは健康マニアだ。だから多分、私は大人になっても太らない。それはいいことだろうけど、今の私には嬉しくないこと。
 一部の男子に言われる。ガリガリオンナ。産毛も目立つから、毛深いオトコオンナ、と言われることもある。体育の時間には脚が丸見えになるので、ゴボウ呼ばわりだ。圭子ちゃんがダイコンと呼ばれているのは知っている。同じ野菜仲間だと思って声を掛けたら、睨まれた。同じように辛いのにな。
 健康マニアのお母さんは、よくゴボウサラダを作ってくれる。美味しいけど、食べていて悲しくなることがある。お母さんは子どもの頃、そう呼ばれたりしなかったのかな。私と違って気が強いから、男子なんて蹴散らしていたのかもしれない。


 でも今日だけは、私が輝く日。運動会の対抗リレー。絶対に負けられない。アンカーの私が本気を出すと、放送委員の山本くんが叫ぶ。


「赤組、ごぼう抜きだ!」

[了]
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