その16 あすやろう物語

文字数 500文字

 新人研修が終わってオフィスで働くようになった。毎日が緊張の連続だ。そんな僕を気にかけてくれる先輩がいる。それも二人。恵まれているな、と感じている。

 一人は同じ大学の先輩だ。彼の話を伺ってこの会社に憧れた。この先輩は学生時代から自身に厳しい方だった。「今日できることは、今日中に片付ける」とのことで残業も(いと)わない。隣の部署だが何度か飲みに連れて行っていただいた。始まりが遅れるので、帰りが深夜になってしまう。
 もう一人は隣の席の先輩だ。よく声を掛けてくれて親しみやすい。早く帰りたいからなのか、十六時を過ぎた頃から新しいことには手を付けない。「明日やれることは、明日やる」のだそうだ。

 二人の成績や評価が同じなら、隣の先輩が正しいように思う。でも、明日出社できなくなることだってある。業務の遂行、顧客の利益を第一と考えた場合、大学の先輩が仰ることが正しいような気がする。しかし、自分はそんなにストイックに働き続ける自信がない。

 そんなことを悩んでいたら、もう十七時を過ぎた。隣の先輩が今日も声を掛けてくれる。
「行くか、新人?」
「お願いします」
 僕は仕掛案件のフォルダに作成中の文書を保存した。

 [了]
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み