その24 ダメやん

文字数 500文字

 リクライニングシートを倒し、プルタブを引き上げる。ビールの苦みが喉を通過する。自由席の気忙(きぜわ)しさをBGMに目を閉じる。

 眩しい太陽、青い空、透明な海……

 その中に、彼女がいた。僕は彼女と、偶然そこで同じ時を過ごした。幻想などではなく、間違いのない、過去の事実。

 その彼女に会うため大阪へ行った。旅先での出会いから一年以上経っていた。早朝の飛行機で伊丹に着き、二人で街を歩いた。たこ焼きを作って食べたのは、初めてだった。串カツの「二度漬禁止」に感動した。ビリケンの足を撫で、新喜劇をみた。苦手だと思っていたあの街は、楽しかった。
 梅田にあるビルの屋上だった。ロマンチックな眺めと冷たい風との対比が面白く、心地よかった。陽射しに映えていた笑顔は、夜の灯りでも美しかった。好きだ。付き合おう。遠距離恋愛上等。どう伝えよう。頭の中がグルグル回っていた。

「また会えるよなあ」
 そう言われ、僕は安堵した。今日は次の約束だけでいい。
「そうだね、今度は東京で待ってるよ」
 僕たちは夜景を背にした。その時、聞こえた。

「ダメやん……」
 空耳であってほしい。でも、自業自得か。京都を過ぎ、僕はまた、ビールをあおった。

[了]
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