その5  おくれびと

文字数 497文字

 月曜日、朝八時三十分。始業のチャイムが鳴る。同時に教授が教室に入ってくる。階段教室の中腹に座り、それを眺める俺。五月も終盤。誰に決められた訳でもないのに、いつも同じ席。そして講義に出席するメンバーも固定された。
 俺と同じく内容に興味を持つ仲間。と思っていたが、そうとも限らない。絶対に講義には出るもの、とただ思い込んでいる奴。待ち合わせ場所として利用する奴。ふーん。折角来ているのに、毎回寝ている奴もいる。一番前に陣取っているのにな。
 でもやばいのは、必ず八時三十五分に来るあの女だ。大学の近くに住んでいるらしいのに、何故かきっちり五分遅れで入ってくる。バタバタうるさい訳ではないし、講義も中断されないが、気が散ることは間違いない。この女は意外と真面目にノートをとり、内容に興味もありそうなので一層不思議だ。何故たった五分早く到着するような工夫が出来ないのだろう。そんなことを考えてしまうので、折角の講義内容から気が逸らされてしまう。つい彼女の方を見る機会が増える。

 昼休み、あの女が近付いてきた。「ちょっと貴方、私に気があるの?」
 やはり不思議な女だ。困ったことに、結構かわいい――。

[了]
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