その26 延びたの今日言う?

文字数 499文字

 テーブルをもう一度拭き、椅子に腰かける。ようやくひと息。ポットのお湯は沸騰し、出番を待っている。二十分と短い時間なのでティーパックの紅茶で良いと思うが、とっておきのフォートナム・アンド・メイソンにした。女性の先生なのできっと喜んでくださるだろう。
 覗かれるかもしれないので、息子の部屋も片付けた。あとはトイレ。これは午前中のうちに便器を磨いておいた。子どもの頃の私は、例えば授業参観前日の掃除をしっかりやることに反感を持っていた。電話に出る時の母の声がまるで別人なのをバカにしていた。でもどうだろう。今の私は、それと同じことをしている。きっと母も、この日は同じように片付けていたのだと思う。

 しばらくして息子が帰ってきた。いつも通りランドセルを放り投げ、任天堂スイッチを握りしめる。私は怒った。
「ランドセルは自分の部屋! 家庭訪問が終わるまでゲーム無し!」
 怪訝な顔の息子。何かを思い出したようにランドセルからヨレヨレのプリントを出してきた。月曜日付だ。

 我が家への家庭訪問は一週間延びていた。ゲームに集中する息子を怒鳴る気にもなれず、用意していたキハチのクッキーを三つ、まとめて頬張った。

[了]
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