その10 降雨とUFO

文字数 491文字

「お前、UFO呼べるらしいな」リーダー格の博之が言う。
 皆の視線を受け、順一は答えた。普段と違い、自信に満ちた声。
「大丈夫。昨日マスターしたんだ。放課後、体育館裏の丘でやってみせるよ」
「順一、できなかったら、ぶん殴るぞ」
 順一を囲んでいた冴えない連中も、不安気な表情になる。そりゃそうだ。小学四年にもなって、本当にUFOが呼べるなんて思っている奴はいない。俺も前夜、その番組を観ていた。五つ下の弟が、宇宙人にさらわれる! と泣いたので、慰めていた。まさか順一、お前……。

 数メートルある丘の上に一人、順一は直立した。両方の手のひらを合わせ頭上高く掲げ、何かつぶやき始めた。番組通りで、俺も含めた何人かが笑いをこらえる。

 するとどうだ、天は瞬く間に黒い雲に覆われた。そして雷鳴が轟き、野次馬の美和や真理子の叫び声がこだまする。そして、大雨。これではUFOが来ても確認できない。

 結局、順一は博之に殴られることはなかった。その後も放課後にUFOを呼ぼうとすると夕立となった。雨が止み虹が出ると、博之は優しい気持ちになるらしい。

 UFO特番は夏の楽しみだったなあ。俺は時々思い出す。

[了]
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