その28 あんなカレーに、なあ。

文字数 495文字

 ひんやりとした空気が肌を伝う。僕はカーテンをつまみ上げ、濡れた窓をこすった。朝陽に染まる白銀の世界。今日は快晴だ。期待感しかない。

 大学の仲間と冬の信州に通うようになって三年目。深夜に新宿駅からバスに乗って、早朝のゲレンデへ。朝から滑りまくって、一泊。次の日の午後までたっぷり楽しむ予定だ。
 バスを降り、宿のレンタルコーナーに向かう。チェックインは午後なので、ここに荷物を置いて、着替える。僕は道具を買い揃えていないのでサイズ合わせが必要だが、新潟出身の森田と、羽振りの良い光嶋は自前の道具だ。森田は地元の妙高高原を推すが、多数決で今年も同じ温泉地になった。

 眠気はあるが、()(さら)な雪面にシュプールを描くのは最高の気分だ。秋以降、単発バイトを入れまくった甲斐があった。

 ゲレンデ中腹の山小屋で昼食を摂ることにした。流石に疲労感があり、空腹だ。僕たちは無言で、懸命に食べた。夏目漱石が二枚。おつりがないのは、スキーウエアの身には良いことだ。

 何故か盛り上がらないまま夜になり、温泉に浸かった。湯船から川崎がぼやく。
「二千円……。あんなカレーに、なあ」
 今夜の麻雀は、きっと盛り上がる。

[了]
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