その6  風邪で友が去りぬ

文字数 498文字

 えっ? あいつ、死んじゃったの……。
 自宅に戻った僕は驚きを隠せない。社長が飲み会を強行したあの夜、僕もあいつも、まあ仕方がないか、と思いながら「つぼ六」へ行った。「つぼ六」の店長は久しぶりに僕らからの予約が入って嬉しそうだった。いいことをしたつもりだった僕たちを、あのウイルスが襲った。次々と陽性が出た。僕もその中の一人。あいつもホテル療養仲間。スマホもあるけど、内線電話で連絡を取り合うのは結構ワクワクした。僕の家族は幸い陰性だったが、あいつのところはみんな陽性だった。あいつも咳は酷くて、結局軽症者向けの病院に家族で入院したところまでは知っている。最後になった内線電話で、「咳が酷い感じの風邪だね、これ」と咳込みながら笑っていたな。だから僕もそう思っていた。

 貴ちゃん、悲しんでいるだろうな。上のお子さん、雄くん、だったかな。昔はうちの子とよく遊ばせてもらったな。信じられない、信じたくない知らせなのに、そんな思いを抱いてしまう。感染源を探すのは良くない。いや、もしかしたら僕が発端かもしれない。そういえば社長は、年齢的にもうワクチン打ってたのか? 頭がクラクラする。これ、後遺症?

[了]
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み