その30 セーラー服と祈願中

文字数 496文字

 冬休みは、大学受験生にとって追い込みの時期。学習塾も書き入れ時だ。非常勤講師の原田には休みが無い。文系卒である原田の担当は国語と日本史だったが、この冬は臨時でセンター試験の数学も担当だ。忙しいが、自分が役立つのは嬉しかった。受験で数学を捨てなかったことにも、意味を見出せた。

 元日は自習室を開放するだけで、授業はなかった。質問があった時と教室管理のため、原田はこの日も出勤していた。誰が来るものか、と塾長を馬鹿にしていたが、何故か制服姿の女子高生が三人来ている。家だと手伝いをさせられるので、ここで勉強するのだという。

 数学を担当し始めてからは、質問を受けることも増えていた。彼女たち、かつての自分より出来ない。基礎が足りないな。今日なら鍛え直せるけど、厳しくし過ぎると嫌われるかもな。そう思いながら優しく丁寧に指導をして、十五時を迎えた。今日はこれで閉める。
 教室の外でリーダー格の長嶺典子が、施錠する原田に声を掛けた。
「先生、一緒に初詣行きませんか? 私たちの合格祈願に」


 油断すると表情筋がだらしなく緩む。手を合わせ真剣に祈る振りをしながら原田は思う。今年は、良い年になる――。

[了]
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