その3  溶いてかける少女

文字数 498文字

歩美(あゆみ)ちゃんも、そろそろ起きなさーい!」八時だ。恵美(めぐみ)のお母さんである、容子(ようこ)おばさんの声。おしゃべりで夜更かしをした。まだ眠いが、炊き立てのご飯の匂いに刺激される。容子おばさんは、お母さんの妹。お母さんより料理が上手い。おばさんのご飯も、このお泊りの楽しみの一つだ。パジャマのまま恵美と二人、食卓につく。恵美の家は、着替えずに朝ご飯を食べても怒られない。
 食卓には鮭の切り身とほうれん草のお浸し、そしてひじきの煮物が載っている。やっぱり美味しそう。恵美のお父さんはもう出かけてしまったようだ。挨拶をしなかったな、ときまりが悪いが、おばさんも恵美も気にしていないみたいだ。おばさんが、お米とお味噌汁、そして生卵を持ってきてくれた。三人で「いただきます」と言って箸を持った。
 私は生卵をコンコンと器の縁に当て、なかみを落とす。卵黄が鮮やかだ。うちよりいい卵だな、と思いつつ醤油を垂らし、かき混ぜる。
 ふと、恵美の不思議そうな表情に気付いた。恵美はご飯が盛られた茶碗の真ん中に、きれいに卵黄を載せていた。テレビで見るような卵かけご飯。
 恵美が言う。「え、歩美、卵、かき混ぜてからご飯にかけっとや?」

[了]
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