その12 親戚の虚信

文字数 495文字

 東京に出て、独り暮らしを始めた。一年の浪人生活も、今となってはプラスだったと思う。大学の友達というのは日本中から集まってくるから、話をするだけでも面白い。そして東京にはにいちゃんもいる。二つ上の従兄(いとこ)で名前は隆彰(たかあき)というが、小さい頃から何をするにも僕の師匠だった。師匠が一浪したので、僕もすんなりもう一年挑戦させてもらえたと思っている。入った大学の偏差値は、少し負けたけど。

 大学では、ちゃんと勉強しようと思っている。高校時代に一番面白かったのが生物だったから、理学部を選んだ。生命を追究するので、倫理や哲学も大事だと、大学に入って気が付いた。もうすぐ大型連休という頃、にいちゃんの部屋で酒を飲んだ。初めて二人だけで、じっくり語り合えた。留年しても、やっぱりにいちゃんはすごい。

 日付が変わるころ、僕は瞼が重たくて仕方がなかった。にいちゃんに子ども扱いされたくなくて、必死に頑張っていた。気が付くと、弥生人のような服装になったにいちゃんが、蝋燭(ろうそく)と大きな本を持って僕の前に立っていた。
 
 お前の知りたいことは、ここに全て書いてある。もっと詳しいことは尊師が直接教えてくださるぞ。さあ――。

[了]
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