その23 社畜の下

文字数 497文字

 夏の暑さが和らぐ頃、ようやく仕事にも慣れてきた。この支店の新人は僕一人。同期と比較されないのは助かるが、仕事に慣れた、というのはちょっと違うかもしれない。手の抜き所を覚えた、というべきか。本当は仕事に打ち込んで、充実した気持ちで帰宅したい。もっと燃えたい。そんなくすぶりももっている。毎日残業で終電というのは嫌だ。が、そんな日が全くないのは社会人として損をしているような気がする。顧客のため? 業績のため? もっと大きな何かのため? 自分を犠牲にする姿も格好いいと思っている。

 その意味では、直属の課長代理が理想の姿なのかもしれない。新人の僕からみても、あまり賢いタイプではない。失敗の埋め合わせのために日々残業しているようにも見える。もちろんその失敗の中には、僕が取引先を怒らせた件も入っているので、頭が上がらないのだけれど。そんな代理はこれまで転勤を十回以上経験し、同期はすでに他店の支店長。行内結婚で社宅住まい。系列会社の車に乗り、電化製品を使っている。そして本部の決定には絶対服従だ。それに僕らは振り回される。

 電灯が反射する代理の頭を見つめながら、僕は思う。仕事って何だろう?

[了]
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