その8  昼間の賭け事

文字数 499文字

 パドック内を馬が誇らし気に歩いている。事前にスポーツ紙を熟読し、最後は自らの眼。専門的なことは分からないが、自分で見定める。よし、次のレース、七番だ。俺はある作家の影響を受け、単勝買いで勝負する。投票用紙にマークし、窓口の列に並ぶ。ふと、隣の列に知った顔を見つけた。学友の川崎だ。お互い苦笑いし、一緒にレースを観た。川崎は、連勝複式で五-七を当てていた。俺の七番は二着。単勝なので、こちらは外れ。まあいい。楽しみ方はそれぞれだ。
 学生は勝馬投票券の購入を禁じられているが、当時チェックされることはまずなく、今回のようにここで友人に会うことも多かった。時には、大学で見かけなくなった奴にも遭遇した。光嶋という関西人はその代表で、携帯も普及していない時代、光嶋には競馬場に行けば会える、という伝説も(ささや)かれつつあった。そろそろ出席しないと落第が確定する講義もある。川崎と俺は、光嶋に会ったら中国語には出るように言おう、と話のネタにしていた。そして今夜の合コンに行く為、最終レースを残し二人で競馬場を去ろうとした。

 が、あっちの群衆に、いた!

 俺たちは叫んだ。

「ミツシマーッ、一緒に大学へ戻ろう!」

[了]
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み