その20 故障の神様

文字数 500文字

 また騒ぎが起きているようだ。騒ぎの元はいつもの彼女。パソコンが動かなくなってしまったらしい。彼女は明るい性格で、俺のような者にも話しかけてくれたり、お菓子をくれたりする。甘い物は控えているが、家に持ち帰り妻や子どもにあげると喜ばれるので、ちょうどいい。
 そんな彼女の得意技が、機械やパソコンを不調に(おとしい)れることだ。普段何気なく使っているものが、何故かおかしくなる。コピー機なんて、一番大きなボタンを押すだけのはずなのに、見たことのないメッセージを画面に表示させる。パソコンが普及してからは、特にひどい。普段使いではまずお目にかかることのないエラーを生み出したり、画面を真っ暗にしてしまう。そして今日のように、笑顔で右往左往しているのだ。「私が触ると壊れる」と(のたま)う。自覚はしている訳だ。でも何故、彼女が触るとそうなるのだろう? 

 そして、やはり彼が登場した。パソコンやプリンターのトラブルがあるとどこからともなく現われ、簡単に直してしまう。しかも嬉しそうに。俺にもそういう技術があればなあ、とは思うが、やはり機械には余り興味が湧かない。甲高い声の「ありがとう」を聴きながら、俺はそっと営業に出た。

[了]

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