その18 週五で寄る

文字数 499文字

 新築のマンション暮らしは快適だ。駅から徒歩十五分。妻が望んでいたオール電化のオープンキッチン。サクサク動くインターネット環境。そしてオートロックセキュリティー。不満無し。住宅ローンについては、団体信用生命保険でどうにでもなる。
 マンション暮らしはしかし、気を遣うことが多い。前の家は古い戸建てで、隣とのスペースが結構空いていた。子どもの騒ぎ声も、洗濯機の音も、夫婦の時間さえも、ほとんど気にしなくて済んだ。が、ここは違う。何かあれば翌日には、掲示板に貼り紙が出る。妻が気に病むようになり、夢のマンション暮らしが窮屈なものになった。家路へ急ぐこともあるまい、と途中のコンビニに寄ってしまう。そして、特に要らないはずのものをつい買ってしまう。

 これはコンビニの商品開発や陳列の方法が優れている証拠であって、レジにいるあの娘が気になっているからではない。レジは二つあるが、空いているおばちゃんではなく、混んでいるあの娘に並ぶのは、自分の右側に支払機があるほうが使いやすいからである。週五回、偶然にも会ってしまうので、顔は覚えられているだろうが。

 そうだ! 朝もあそこでコーヒーを買うことにしよう。

[了]
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