その19 最低二万入る
文字数 499文字
白い壁。床は緑色。腕まで覆うエプロン。マスクとキャップ。欠伸をする間に、大き過ぎるビニール手袋に包まれた手掌の前を、白い塊が通り過ぎていった。
斜め前の男がこちらを向いた。何か言いたそうだったが、すぐに顔を戻した。どこの誰かは全く知らない。休み時間に因縁を付けられるのではないかと怖くなった。
もっともここでは、俺に少しばかりやり逃がしたことがあっても、斜め前の男がそれをカバーするのがルールだ。その証拠に、俺の目の前のボールも、斜め前の男のそれも、同じくイチゴが入っているのだ。むしろ斜め前の男よりも手前に立つ俺が損をしていると言ってよい。そう思い、少し強気になった。
ジリジリとベルが鳴り響く。休憩だ。独りでタバコに火を点ける。普段は酒が入った時しか吸わない。こんなに旨かったかなあ、と天井を仰ぐ。そこに一匹のハエがいた。逆さまになってちょろちょろと動いている。部屋中に貼られる「清潔」の文字が滑稽だ。
再びベルが聞こえ、俺はベルトコンベアの前に戻った。クリスマス商戦に合わせたケーキ工場の深夜バイト。担当はイチゴ載せ。今夜が二日目。これで最低二万円は確保した。
俺の名は、ミツグくん。
[了]
斜め前の男がこちらを向いた。何か言いたそうだったが、すぐに顔を戻した。どこの誰かは全く知らない。休み時間に因縁を付けられるのではないかと怖くなった。
もっともここでは、俺に少しばかりやり逃がしたことがあっても、斜め前の男がそれをカバーするのがルールだ。その証拠に、俺の目の前のボールも、斜め前の男のそれも、同じくイチゴが入っているのだ。むしろ斜め前の男よりも手前に立つ俺が損をしていると言ってよい。そう思い、少し強気になった。
ジリジリとベルが鳴り響く。休憩だ。独りでタバコに火を点ける。普段は酒が入った時しか吸わない。こんなに旨かったかなあ、と天井を仰ぐ。そこに一匹のハエがいた。逆さまになってちょろちょろと動いている。部屋中に貼られる「清潔」の文字が滑稽だ。
再びベルが聞こえ、俺はベルトコンベアの前に戻った。クリスマス商戦に合わせたケーキ工場の深夜バイト。担当はイチゴ載せ。今夜が二日目。これで最低二万円は確保した。
俺の名は、ミツグくん。
[了]