第128話 住よく業を制す

文字数 1,151文字

 北伊勢高校では武道の授業がある。男子は柔道、女子は合気道と分かれているが、教師の植芝のはからいで、裁紅谷エリと男子のトーナメント勝者が対戦することとなった。

 裁紅谷姉妹はイスラエルの近接格闘技、クラヴ・マガの手練れで、男子がエリを借りる格好だ。

 マリアもこういうときメラメラと闘志が湧くタイプであるが、合気道には試合というものが無いためエリとの対戦はならず、残念な表情を浮かべていた。

 男子のAブロックでは、イエスが駒を進めていた。柔道家よりも立派な体躯を持ち、幼少期より十九川家では住建術と柔剣術をたたき込まれてきた。力強い投げ技が得意である。

 Bブロックを勝ち進んできたのは、メシヤであった。先手必勝ではなく相手の出方を待ち、隙を狙って技を仕掛ける。一見すると、なぜあれで勝てるのかが分からない。

「お姉さま、どちらが勝つでしょうか?」
「白いほうが勝つワ」
 イエスは黒帯、メシヤは無級であった。

 はじめの号令とともに、イエスが豪快に背負い投げの体勢に入った。力勝負ではイエスのほうが上だ。メシヤはあっけなく飛ばされた。

 畳に叩き付けられる前にメシヤは体をひねって腹から落ちた。なんとか一本は免れる。
「いたたたた・・・」

「次は無いぞ、メシヤ」
 イエスもすっかり戦闘モードだ。

 メシヤが立ち上がると、早々にイエスが距離を詰める。体格差は歴然だ。イエスが反転すると、勝利を確信した。
「終わりだ、メシヤ!」

 イエスの口車には怯まない。
メシヤはイエスの前に潜り込み、そのまま回転モーメントを利用して横車を決めた。鮮やかな返し技であった。

「よくここまでこれたネ」
 エリが両腕を組み、メシヤの健闘を讃えている。

「イスラエルのガーディアンと対戦だなんて、緊張するね」
 メシヤは白、エリはブリリアントグリーンのカラー道着をまとっている。

「ねぇレマちゃん、さすがにエリちゃんも手加減してくれるわよね?」
「いえ、それは無いと思いますわ。ウカウカしていたらお姉様がやられますから」

 メシヤが襟を掴もうとすると、ゴールドベルトのエリはなんなく払いのけて、素早く有利なポジションに移動を繰り返す。
(メシヤを護衛するワタシガ、当のメシヤに負けるわけにはいかないネ!)

 小柄なエリは、横捨て身技の名手である。
「メシヤ、谷落としよ!」
 柔道の100技を知り尽くしているマリアが、エリのたくらみを読み当てた。
「チィッ!」

 メシヤは飛び上がってエリの左腕に脚を掛けようとした。
「メシヤ! 無闇に跳び上がるもんじゃないヨ!」
 つい調子に乗り、クラヴ・マガの技を仕掛けてはみたが、相手が悪かったようだ。

 メシヤはひっくり返されて、畳に背中を打ち付けた。

 エリの二つの髪飾りが落ちた。ライム色の髪が、ゲッセマネのオリーブの木のように広がった。




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