第157話 民はよらしむべし、知らしむべからず

文字数 762文字

「メシヤぐらいの年代からすれば、政治家は頼りない、信頼できない存在と思えてしまうんでしょうね」
 白馬が鷹山と面会している。

「言い訳にしか聞こえないだろうが、政治家を志す者は誰しも、日本のため、国民のためと躍起になるものなんだよ。最初はな」
 鷹山が現状を皮肉る。

「世界の荒くれどもたちと伍するには、そんな正攻法だけでは叩きつぶされる、と」
 白馬は茶化すのではなく、いたって真剣だ。

「ああ。そいつらはありとあらゆる手段を使って政界の奉仕者たちを揺さぶってくる。国民目線の発言をしていた者が急に強硬な手段に出たり、容態が思わしくなくなったりした場合は、やつらが関与した疑いが濃厚だな」
 鷹山は両手を揉むように組んでいる。

「非業の死を遂げた政治家や官僚が何人もいますね」
 白馬が追っていてうやむやになった案件も数知れずだ。

「舞台裏を明かそうとする勇敢な政治家やジャーナリストもいるが、メディアはやつらに占拠されているからな。若者が重きを置くインターネットとて例外では無い」
 鷹山と同期の政治家にも、こころざし半ばで倒れた者が、両手では足りない。

「やつらは狡猾だよ。スキャンダルは誰しも少なからずあるものだが、向こうの陣営にそれらが発覚しても、決して引きずり下ろすことが出来ない」
 対する勢力は、ささいなトラブルを大悪事のように取り沙汰される。そんな映像を何十回も見せられた国民は、まともな判断力など狂ってしまう。

「そんな血で血を洗うこの政界で、ダンナが首相になれたのは革命的でしたね」
 白馬はお世辞を言う性格では無い。

「私もやつらの駒に過ぎないのかもしれんがな」
 鷹山が不敵な笑みを浮かべた。
鷹山が最も信頼を置く人物。自分がこの椅子に座っているのも、彼のおかげだと誰よりも知っている。いつでもタスキを渡す準備が、鷹山には出来ていた。






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