第140話 バフチサライの泉

文字数 655文字

「きょうは遠出ね~」
 助手席に乗っているだけだったが、マリアがこぼした。

 メシヤたちは、関市に来ていた。臥龍剣のメンテナンスのためだ。

「誰が呼んだか、バフチサライの泉ってのが関市にあるらしいんだ」
 メシヤは観光地図を広げる。

「北伊勢市よりものどかで山の深いところですわ」
 聖剣の庇護は、裁紅谷姉妹にとってメシヤの次に重要項目である。

「関グルメといえばウナギだな」
 目的を果たしたら美味いモノでも食べようというイエスの意図だったが、ウナギを食べられないエリは、不満げだった。

「でもさ、刃物の町だからてっきり刀鍛冶さんのところにでも行くのかと思ってたわ」
 マリアの疑問は当然だが、メシヤの聖剣は日本刀とは機構が著しく異なる。

「うん。僕も良い包丁があれば買おうと思ってるよ」
 工房では筆を選ぶ。

「あれじゃないかナ?」
 車では通れない獣道のその先を、エリが指し示した。

 澄んだ泉が湧出している。睡蓮とコウホネで彩られ、あでやかな鯉が優雅に泳いでいる。
メシヤ一同、その光景を目にして、長距離の疲れが和らいだようだった。

「あ、メシヤ!」
 マリアが先にメシヤの腰元の光に気付いた。メシヤは左のホルダーから臥龍剣を右手で抜いた。あっという間に壮麗な水龍があらわれた。

「よしっ!」
 左手に持ち替えると、水龍は柄に吸収されていった。

「あとは白山に行って鳳雛剣の焼き直しだな!」
 イエスがメシヤの肩をバンバン叩いた。

「メシヤ、泉に落ちなくて良かったネ」
 綺麗なジャイアンは出て来なかったが、切れない臥龍剣は無事元の輝きを取り戻した。







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