第129話 Cook Book

文字数 989文字

 家庭科の調理実習が行われている。メシヤには昼飯前であった。

「こんなの、あんたが断然有利じゃない」
 マリアは、メシヤと同じ班であった。

「一人で作るわけじゃないからね」
 楽をしようとしていたマリアを牽制する。

「きょうは天ぷらだネ!」
 揚げるとなんでも美味しくなるという法則が、発動中である。

「天ぷらに合わせる炭水化物は、お任せのようですわね」
 頭脳労働者のレマには、ブドウ糖が欠かせない。

「順当なら白い飯が欲しいところだ」
 イエスは朝食もライス派だ。

「うどんはどうかな? 揚げ物を具材にしたらぴったりだよ」
 メシヤの提案に、みなが賛成した。

「きょうはワタシも包丁を新調したヨ!」
 PIYO PIYOとプリントされたエプロンを身にまとうエリ。おろしたての包丁で知らない人にもオハヨウと言えそうな気がした。

「肝心な具材はなんだったかしら?」
 昼前なので、マリアもハングリー精神が旺盛である。

「定番のエビやイカはもちろんのこと、丸十、ヤングコーン、牡蠣とハマグリの天ぷらもあるよ」
 まるで高級料亭のラインナップである。

「メシヤ、あれも忘れないでくれよ」
 メシヤの得意料理に胃袋を掴まれているイエスがぼそっと言う。

「ああ、もちろん! 牛肉の天ぷらだね!」
 これは最高にうどんに合う。裁紅谷姉妹がいまにも涎を垂らしそうだ。

「夢賀渓で天ぷらをいただいた日のことを思い出しますわ」
 この日、メシヤは頭から米油をそそがれた。

「臥竜剣と鳳雛剣が活躍した日だネ! メシヤ、最近両刀の調子はどうなノ?」
 個人的にも興味を持ってのことだが、エリはきっちり仕事もこなす。

「うん、ちょっと焼き入れが必要かなって。関まで行かないといけないかも」
 水も火も使っているのに、メシヤの両腰にある聖剣は、光が弱い。

「メシヤ、そろそろじゃない?」
 ピチピチピチと高い音がしていた。マリアは耳で天ぷらを揚げる。
「あぶないあぶない、キツネ色どころかタヌキ色になるとこだったよ」

 食卓に完成品がならぶ。まずは天ぷらだけで。次に塩で。天つゆで。お好みの具が決まったら、うどんへ投入する。

「う~ン。イエスの言うとおリ、肉の天ぷらが美味しいネ! うどんだけでなク、肉天丼とか中華料理にも使えそウ!」
「だろ? 他ではあまり食えないからな」

 プロミネンス禍で、家食が増えている。裁紅谷姉妹のレパートリーに、また新作メニューが追加された。





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