第150話 でも、音楽がある

文字数 1,265文字

「日本の80年代シティ・ポップが、世界中で人気だそうですわ」
 音楽は言葉の壁も、時間の壁も越える。

「そうなんだよ。僕も好きでよく聴いてたんだけど、『古い!』って勝手に演奏を止められちゃったりしてたんだ」
マ リアのほうをチラ見するメシヤ。

「悪かったわね。中には名曲もあるけど、メシヤの好みと合わなかっただけよ」
 マリアは最新の流行曲を好む。

「世界が認めたってことは、なにかしら理由があるんだろうな」
 イエスは洋楽を掛けて気分を高める。

「日本のアニソン歌手ってネ、それはもう神様みたいな扱いなんだヨ!」
 エリのiPodは、マニアックな曲で埋め尽くされている。

「音楽は気軽に聴くモノだと思われていますが、使いようによっては毒にもなりますし薬にもなるものです」
 古代アトランティスの記憶も保持するレオンの音楽的教養は、さぞかしのものだろう。

「スポーツの応援歌とかがそうだよね。ただ単にその時代の流行曲を選ぶとかじゃ無くて、選曲の妙みたいなのがあると思うんだ。その選手やチームとイメージがマッチすると、爆発的な威力を生むんじゃないかな」
国民を、地球市民全体を、沸き上がらせる曲というのも、存在するのだろう。

「でも、考えてみたら怖いことよね」
マリアが真剣な表情をする。

「どういうことでしょうか?」
レマが合いの手を入れる。

「ええ。もし特定の人や敵対国の人々が疑心暗鬼にさせられたり、気分が滅入るような楽曲を知らず知らずの内に聴かされ続けていたのだとしたら、って考えるとね・・・」
片方の耳を押さえるマリア。

「マリアも『モー。』みたいなことを言うんだネ!」
エリがからかった。

「それがホントかどうかは分からないんだけどさ」
 メシヤがマリアの話に乗っかった。

「ここ数年の大ヒットしたとされる曲の中で、どうしてもハートに来ないというか、気乗りしないものもあったんだよね。でも、みんなが好きだって言ったり、チャートでも上位に来てたりするから、自分の感性がおかしいのかなって悩んでたこともあるんだよ」
 メシヤの話は闇が深そうだ。

「洗脳音楽というのは、太古の昔から使われてきた手法です。どの楽曲が、とは明言できませんが、メシヤくんもご自身の感覚を頼りに、惑わされること無く音楽を楽しまれると良いのではないでしょうか。チャート順位や動画の再生数など気にしないことです」
 メシヤを護るように教え諭すレオン。

「PCで音楽を作るようになって、余計な音を足し増ししてる感はあるな」
 小説をワープロソフトで作るようになって、無駄な文章が増えたことと似ている。

「それよね。音の装飾をしすぎて雑音になってる感じよね」
 人間が心地よく感じる音と音のコンビネーションは、範囲が限られている。音素が増えるほど複雑化して人間の手に負えなくなってくる。天文学の三体問題と似ているかも知れない。

「それよリ、みんなでカラオケ行きたくなってきタ!」
 暗い話を断ち切るように、元気娘が音頭を取った。
幸せが来る日をキャンセル待ちにはしていられない。
メシヤもマリアも、日本の未来は、世界がうらやむ。




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