第175話 愛と幻想のfussyism(造語)

文字数 1,149文字

「あはは。この飛び込み界のレジェンド、すごいわね」
 一日にこなすルーティンが、30以上あるという。

「うんうん。自分の毎日の生活にも取り入れたいよね」
 血液型占いの是非はさておき、この几帳面なレジェンドは、A型であった。

「でもお兄ちゃんも負けてないよね」
 マナが笑みをこぼす。

「へえ。こいつどんなルーティンなの?」
 メシヤのことだからなんとなく細かいルーティンなんだろうなと、マリアは予想がついていた。

「ルーティンとはまた違うのかも知れないんですけど、こだわりがあるんですよね」
 さきほどのレジェンドは綺麗な状態でないと気になる性格で、メシヤもそれは同じなのだが、その綺麗な状態に戻るまでのあいだに、メシヤ周辺はカオス状態を通過しなければならなかった。

「あ~、そうそう! メシヤは最後にはきちんと片付けるんだけど、そこに至るまでの過程がしっちゃかめっちゃかなのよね」
 マリアがいままでの経験を思い出して表情が曇る。

「あれですよね、片付けるためには思い切って全部ぶっちゃけたほうが綺麗に整頓できるっていうあのライフハックですね」
 当のメシヤを置いてけぼりにして盛り上がる二人。

「おいおい、マナ。あんまり実兄の恥をさらすもんじゃ無いぞ」
 人前でも奇妙なメシヤだが、誰も見ていない一人きりの時には、もっとおかしなことをしているだろうと想像される。

「挙げだしたらキリが無いんですけど、わたしがもっと小さかった頃のお兄ちゃんの台詞が忘れられないです」
「へえ、それは聞きたいわね」
 メシヤも何だろうと記憶をたぐっている。

「はい。その時はまだ同じ部屋で寝ていて、テレビも置いてあったんです。お兄ちゃんが部屋の電気を落としてテレビも消したから、もう寝るんだなと思ってたら、またテレビを付けたんです」
 謎の行動である。

「世にも奇妙な話ね」
 トイレにでも行きたくなったのだろうか。

「あ~、マナ。もう言わなくて良いぞ」
 牽制するメシヤ。

「『どうしたの?』 って聞いたら、『消す直前に女の人が怯えて絶叫するシーンが映ったんだ。そんな場面を最後に見て一日を終えたくないだろ?』って」

「えええ! もう寝るんだからなんだっていいじゃない、そんなの!」
 メシヤの肩を持つと、確かにホラー映像で就寝するより、大勢の楽しそうな笑顔が映ったシーンや、可愛い動物、美味しそうな料理、風光明媚な景色の映像を最後に見たほうが、良き眠りへと導かれそうだ。

 いつもの癖で反射的にメシヤにツッコんだマリアであるが、ふと考えた。自分は悔い無き人生を送っているか、と。人生の最期には、これで良かったと笑えたらいいな、とさえ思うまでになった。誰に対しても憎しみしか湧かなかった過去の自分であるが、いまそんなことを思う自分が、ほんの少しだけ好きになっていた。





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