第69話 ワシリイの秘密

文字数 1,216文字

 数週間後。外装工事も終わり、いよいよ舞台は整った。
 
 以前、レオンたちが話していたことをご記憶だろうか? 鳳雛剣に太陽の火力を、臥竜剣に地球の水力を、と密談していたアレだ。
 
 太陽の火力を集めるのは比較的簡単だった。日差しの強い日を選び、太陽が南中したのを見計らって、南のヨウグ塔ハイサイドライト下にある、マントルピースに聖杯を置くのだ。すると、マナの聖杯が灼熱の光を放つ。メシヤはすかさずその光を集めた。
 
「Say When !(いいところで止めて!)」
「まだです。まだまだです」

 マナはメシヤの傍に近づいて、串焼きを調理した。
「太陽光で直火焼きなんてなかなか味わえないぞ」
 メシヤが妹の要領の良さを見てグルメレポートをする。

「あ~ッ、いいなア、マナ!」
「まだまだありますよ、エリさん」
 エリも負けじと串を焼いた。
そんなこんなで、エリたちの腹が満たされる頃には、レオンのOKが出た。
 

 別日、メシヤとレオンが北のシイベル塔の前に集まっていた。ここ数年、未曾有の大洪水が世界各地で起きていた。地球温暖化と集中豪雨は複合的な要素が絡まって発生するのだが、その講義をするにはあまりにも紙幅が足りない。
 
 太陽光を集めるのは、目的のブツが天上に見えているので問題は無かった。だが、水力となるとこうはいかない。ワシリイ宇宙センターは海辺でもないし、山のふもとだ。
 
「海洋上昇分の水をマナの聖杯から湧出させればいいのですが、そんなことをしたらここが海の底に沈んでしまいますし、量が膨大すぎて現実的ではありません」
 レオンが諭すように説明する。
「うんうん」
 メシヤはレオンの言うことを素直に聞いている。
「そこで、マナの聖杯を巨大な蛇口に見立てて、各余剰水域をつなげるのです」

 それを横で聞いていたマナが不安そうにメシヤたちを見つめる。
「聖杯の向こうに水があるものとして、臥龍剣にチャージするんだね。でも、マナの体に異変は起きないかな?」
 メシヤが妹の身を案じて質問する。
「心配ありません。太陽の火力を集めたときもそうでしたが、これらはマナさんの身体と等価交換をするわけではありません。今回の聖杯の使い方は、SF漫画に出てくるように、空間と空間をつなげるドアの役割をさせるのです」
 
「ほっ、なら良かった」
 メシヤがそうつぶやいた後ろで胸をなで下ろすマナ。
  
「エメラルドタブレットを貸していただけますか?」
 レオンはメシアに促した。
「うん、ちょっと待って」
 メシヤは背中の鞄から石版を取り出して渡した。レオンはそれを受け取ると、なにやら古めかしい遠い国の言語をつぶやいた。
 例のごとく、石版がエメラルド色に輝いた。ぼんやりと浮かんだ光の文字を、レオンは素早い手の動きでタイピングしている。
「す、すごい・・・」
 居合わせた藤原兄妹は固唾をのんでいる。
 
「ポンポロポン♪」
 レオンがキーを打ち終わると、デコード完了の合図であるハープの音が鳴った。





 
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