第45話 技術課題

文字数 1,222文字

 日本政府は理系教育推進に舵を切った。リケダン・リケジョを養成し、モノづくり大国の復権を目指す。理系畑出身の鷹山が口酸っぱく発言してきたことがようやく実り、江馬総理が重い腰をあげた格好だ。

 北伊勢市は理系教育が盛んで、建設業・自動車産業に就くものが多い。製造工場も多く、手が器用な県民性である。
 北伊勢高校では、男女ともに技術の授業が必修だ。営業や経営の道に進もうとも、現場をわかっていないものは大成しないとの方針である。そのまま大学に行かず、エンジニアになる者も多数だ。

 今年度の北伊勢高校では、技術の課題が「理想の建築物」だった。小学校の夏休みに工作の課題で出されたことがあるだろう。立派な建物を作ってくる生徒もいたが、あれはいわゆる、組み立てキットと呼ばれるものである。技術教師の杢生(もくお)(たくみ)は、このズルをしないように始めに釘を刺した。生徒たちからため息を漏らす者もいたが、仕切り直して構想を練り始めた。



「イエスくんは何をつくるの?」
 マリアが興味深そうに聞く。
「名古屋城にしようかなと思ってるよ」
「イエス、どうせなら桑名城がいいよ。僕らの地元だし。
 北伊勢市は三重県北勢地区の市町村が合併して出来た、新しい都市である。桑名市はその合併の中心となった市だ。
「うむ、それもいいな」

「マリアは?」
 メシヤがマリアの才能を知った上で問う。
「へっへーん。あたしはベルサイユ宮殿をモチーフにした、夢の家を作ってみせるわ」

「まあ、素敵ですわ。マリアさま」
 マリアは小さい頃から相当苦労したらしく、家の手伝いや秘密のアルバイトなど、手を使うことには慣れている。

「そういうレマちゃんは?」
「わたくしはお姉さまとの合作で、イスラエルの第三神殿を作りますわ」
「ワタシはデッサンなら得意なんだヨ!」
 小さい体で得意そうに胸を張るエリ。

「うおー、みんなすごいな」
 メシヤの目が爛々と輝く。
「あんたはどうするのよ?」
 マリアが興味半分・不安半分で聞いた。
「僕は聖ワシリイ大聖堂をベースに、市民の憩いの建物を造るよ。宇宙からの来訪客にも目 
立つようにね」
「・・・あんたらしいわね」
 口元が()()るマリア。

「よーし、みんな造るものは決まったかー」
 技術教師の杢生が声をかけた。まだテーマも決まらずぶつぶつ言う者もいたが、北伊勢高校に進学した生徒は勉学のためだけでなく、手に職をつけたいと希望する者が集まっている。東海地区がものづくりの盛んなことと無関係ではない。

「材料は何を使ってもいいぞー。ただし、既成品の組み立てキットをそのまま提出したら、
大減点だぞ」
「はーい」
 生徒の温度差はまばらだったが、杢生に指導してもらうために、人だかりが出来ていた。

 街並の最小構成単位である家。その中には国民の最小集団である家族がある。住みよい家は間違いなく、その住人(すみびと)にプラスの作用をもたらす。()いては、明るいまちづくりに繋がる。イエスの愛読書ではないが、『家造りはひとづくり』なのである。




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