第148話 シュロップシャーの若者
文字数 1,136文字
「ムッシュ、あなたの目に狂いは無かったわね」
ジェニーとレオンが茶会をしている。
「いえいえ、否が応でもメシヤくんの影響力からはまぬがれないといったところです」
レオンはカップをすする。
「先月、日本国内でも総選挙がありましたが、彼らともその話題になったわ。わたしはやきもきしているのだけれど」
つられてジェニーも両手でカップを支え、磚茶 で会話の端緒とした。
「人が行動を始めるのは、目の前にニンジンをぶら下げられた時か、尻に火が付いた時だけだと言った人がいましたが、行動ということで言えばメシヤくんはもうそこら中を動き回っていますからね」
間違いなく、メシヤは多動である。
「それもそうね」
影響力を数値化することはなかなかに難しいが、『3分で創るインスタント・ユニヴァース』内の記述が、読む人々に物理的なアクションを起こさせていることは、容易に観測できる。
「一口に情報と言っても、情報量が多いと伝達が滞るというパラドックスがあるわ。情報エントロピーが低くて、かつ冗長性を排除した文言。SNSではそうしたものにいいねが付きやすく、瞬時に地球の裏まで届く、と」
ジェニーの講義が始まった。
「今年世間を騒がせたニュースのキーワード、ヒット商品にいたった開発者のエピソードを辿っていくと、そうした個々の発信者の何気ない一言がきっかけだったりしますね」
「そういう流行を生み出す能力は、飽きっぽい人のほうが向いているのは言うまでも無いわね。単調なものの中から変質なものを見いだすとでも言うのかしら」
読書でポイントをすぐ見つけられるのも、こうした能力と似ている。
「メシヤくんも例外では無いけれど、彼の生み出す文字列ってね、なんだか笑っちゃうの。一日疲れて帰ってきたあとに、リフレッシュ出来ちゃう」
プロミネンスや大不況の暗いニュースが世界を覆っているが、メシヤの果たしている役割は大きい。
「博士もそろそろ日本を発たないといけないのでしたね」
多忙な天才科学者は、一時的に本国のラボに戻らなければならない。気軽に海を渡れるようになったのは、ジェニー本人の功績である。
「メシヤくんだけでなく、マリアちゃんとももっとお話したいのだけれど、どうやら彼女、わたしのことをこころよく思っていないみたいで」
ジェニーは表情を曇らせる。
「私が言うのも野暮な話ですが、二人とも多感な年頃ですからね」
レオンははぐらかした。
「危険もあるでしょうけど、あの二人には裁紅谷姉妹が付いているから心配していないわ。それより」
ジェニーは、含みを持った笑みを浮かべた。
「なにやら嬉しそうですね」
ガラにも無く緊張しているのか、レオンは渇いた喉を潤す。
「やはり、というべきか、エリリンちゃんはあなたに興味を持ったようね」
ジェニーとレオンが茶会をしている。
「いえいえ、否が応でもメシヤくんの影響力からはまぬがれないといったところです」
レオンはカップをすする。
「先月、日本国内でも総選挙がありましたが、彼らともその話題になったわ。わたしはやきもきしているのだけれど」
つられてジェニーも両手でカップを支え、
「人が行動を始めるのは、目の前にニンジンをぶら下げられた時か、尻に火が付いた時だけだと言った人がいましたが、行動ということで言えばメシヤくんはもうそこら中を動き回っていますからね」
間違いなく、メシヤは多動である。
「それもそうね」
影響力を数値化することはなかなかに難しいが、『3分で創るインスタント・ユニヴァース』内の記述が、読む人々に物理的なアクションを起こさせていることは、容易に観測できる。
「一口に情報と言っても、情報量が多いと伝達が滞るというパラドックスがあるわ。情報エントロピーが低くて、かつ冗長性を排除した文言。SNSではそうしたものにいいねが付きやすく、瞬時に地球の裏まで届く、と」
ジェニーの講義が始まった。
「今年世間を騒がせたニュースのキーワード、ヒット商品にいたった開発者のエピソードを辿っていくと、そうした個々の発信者の何気ない一言がきっかけだったりしますね」
「そういう流行を生み出す能力は、飽きっぽい人のほうが向いているのは言うまでも無いわね。単調なものの中から変質なものを見いだすとでも言うのかしら」
読書でポイントをすぐ見つけられるのも、こうした能力と似ている。
「メシヤくんも例外では無いけれど、彼の生み出す文字列ってね、なんだか笑っちゃうの。一日疲れて帰ってきたあとに、リフレッシュ出来ちゃう」
プロミネンスや大不況の暗いニュースが世界を覆っているが、メシヤの果たしている役割は大きい。
「博士もそろそろ日本を発たないといけないのでしたね」
多忙な天才科学者は、一時的に本国のラボに戻らなければならない。気軽に海を渡れるようになったのは、ジェニー本人の功績である。
「メシヤくんだけでなく、マリアちゃんとももっとお話したいのだけれど、どうやら彼女、わたしのことをこころよく思っていないみたいで」
ジェニーは表情を曇らせる。
「私が言うのも野暮な話ですが、二人とも多感な年頃ですからね」
レオンははぐらかした。
「危険もあるでしょうけど、あの二人には裁紅谷姉妹が付いているから心配していないわ。それより」
ジェニーは、含みを持った笑みを浮かべた。
「なにやら嬉しそうですね」
ガラにも無く緊張しているのか、レオンは渇いた喉を潤す。
「やはり、というべきか、エリリンちゃんはあなたに興味を持ったようね」