第165話 愛の才能ないの

文字数 873文字

 藤原メシヤと十九川イエスは、恰好の比較対象であった。イエスはどんなことでもたちどころに要所をおさえ、自分のものとしてしまう。かたやメシヤはと言うと、勘が悪いのか、要領を得ず、もたもたと時間が掛かってしまう。

 複雑な脳の構造を説明するのに、足がかりとして右脳・左脳とに分ける見方がある。イエスは右利きで、言語野である左脳との連携がスムーズである。そうしたことは、学習面や細かい作業の点においても、有利に働く。

 メシヤは左手が優位で、右手も使わなければならない環境から自然とそうなった両利きであるが、目に入った映像をまず右脳で捉え、ワンテンポ遅れて脳梁を経由して言葉として出て来るので、会話にズレが出て来ることがよく起こる。

 幼少の頃はこうしたことがハンデとして、コンプレックスとして、メシヤ少年の胸に刻まれていたかも知れないが、成長して行くにつれ、一旦自分で受け止めて自分なりの考えを示すということが、多方面で活きるようになってくる。

「メシヤさま、なんでも器用にこなしますね」
 藤原家のガレージ兼作業場で、ちょっとした工作をしているメシヤ。

「いやあ、そんなこともないんだよ」
 照れているのか、レマと目も合わさず作業を続けるメシヤ。

「裁紅谷。こいつはな、元々は不器用なんだよ。だが根気とやり続けて自分でどうやったら上手くいくか地道に見つけていくんだ。最初からなんでも上手に出来たら、もしかすると創意工夫には向いていないのかもな」
 小さい頃から自分とメシヤが比較されていたのは、よく知っているイエス。

「好きなことと出来ることって、案外一致しないこともあるわよね」
 マリアの言う通り、好きだからと言ってそれが得意とは限らないし、出来るからと言ってそれが好きになるとは限らない。自分にとってちょっと苦労することのほうが、趣味になりやすい。

 内緒だが、不器用でもコツコツやり続けて自分のものとしていく男に、マリアは惹かれる。

「よ~し、出来た!」
 メシヤは、キッチンで使うためのスパイスラックを完成させた。いままでの苦労の跡が垣間見える。継続は、血から成り。





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