第104話 シェレシェフスキーの共感覚

文字数 828文字

「あんたって変なことだけはよく憶えてるわよね。学校の勉強は駄目なのに」
 昔話をしたときに、メシヤだけ憶えていて周りは誰も記憶に無いということがある。
「う~ん、なんでだろう?」
 頭の後ろを触りながら考えるメシヤ。

「メシヤさまはゴロ覚えが得意ですよね」
 レマはメシヤのことをよく見ている。
「そうそウ、なんでもダジャレに変換するからネ!」
 エリのコメントも当を得ている。

「その昔、シェレシェフスキーという新聞記者がいましたが、彼は人の声を聞いただけで着ている服が分かったそうです。メシヤくんも共感覚で事象を巧みに捉えて、イメージ記憶をしているのでしょうね」
 レオンが講釈を垂れる。

「あ、知ってるかも! たしか厨房の音を聞いただけで料理の味が分かった人だよね!」
 メシヤも同じ特技を持っているが、実家が料理店だからという理由だけでは無さそうだ。

「記憶力は要らない、考える力が大切だ、なんて言うが、政治家はすぐ記憶にございませんと言うからな。それでは良い考えも出てこないだろう」
 イエスは辛辣だ。

「無駄を省く、必要なことだけ学習するという指導方針の弊害ですね。何が必要かの判断基準が、お金になるかならないかなのでしょうが、本当にお金を得たいのなら、人が手をつけていなさそうなところを自分で探すのが望ましいと思うのですが」
 レマの発言には反論の余地も無い。

「あんたクレヨンとか色鉛筆とかたくさん持ってるわよね。物事に固有の色のイメージがあって、それで記憶しやすくしているのよね、多分」
 メシヤは幼い頃から絵を描くのが好きであった。

「それはあるね。曜日とか月とかそれぞれイメージカラーがあるよ。人にもね」
 メシヤは淡々と奇妙なことを言う。

「風変わりなことに聞こえますが、たとえば見た目だけに使う形容詞を音色に当てはめたりだとか、そういったことをメシヤくんは自然にしている訳です。これがうまくはまると、抜群の記憶力を発揮出来ますよ」
 レオンの声色は、秋の深淵を(たた)えていた。




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