第174話 Fighting in the 90’s

文字数 815文字

「麻生田よ、失われた30年と言われるが、いよいよ笑い話ではなくなって来たな」
 鷹山が経産大臣の麻生田と膝を突き合わせている。

「はい。バブル崩壊後の歴代総理たちが様々な策を講じてきましたが、際だった経済効果は生まれておりません」
 日本国民なら、誰もが知るところである。

「ふむ。お前は以前から消費税導入が諸悪の根源だと語っているが、他にもあるようだな」
 因果関係も相関関係も無いが、消費税導入と日本経済の低迷は、起点が一致している。

「これは時代に逆行していると言われても仕方の無いことですが」
 麻生田は躊躇している。
「構うものか。続けてくれ」
 鷹山は、はやる気持ちを抑えられない。

「ええ。バブル崩壊より前に、週休二日制に移行する企業が出始めました。あまり触れられていませんが、これは大きな分水嶺でした」
 出来ることなら休みは多い方が良い、と考えるのが普通だろう。だが、実際のところはどうであろうか。休みが増えるのなら、当然実質的な年収は減っているはずだ。それは統計にも表れている。収入が減っているのに休みが増えたところで、グルメや趣味に使える小遣いは限られている。

 土日祝が休みのせいで、平日に詰め込む仕事量は増大する。休み明けは特にてんやわんやだ。残業も増える。

「それでも休みが欲しいと言う者は、それを承知で会社に希望を出せば良いだけだな。だが、自分はもっと働きたい、もっと稼ぎたいという意欲旺盛の者を、がんじがらめにしてしまう決まりが存在するのは、馬鹿げている」
 同じ文言の繰り返しになるが、因果関係も相関関係も無い。ただ一点、週休二日制の導入と、日本経済停滞の起点が、一致しているのみである。

 婚活市場が活況であるが、結婚相手にある程度の経済力を求めてしまうのは、いたしかたない。ところが、さらに激しさを増すこのプロミネンス大恐慌で、我々はさらなる試練を課されている。

「総理、御英断を」
 麻生田は「真」の作法で、鷹山に伏礼した。






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