第80話 ペタフティクワ(希望のドア)

文字数 676文字

「マリアちゃん、いつもありがとう! おまけにこれもつけとくよ!」
 マリアは青果店で買い物をしている。店主は機嫌良さそうに、人参とじゃがいもを手渡してくれた。

「マサルさんこそ、いつもありがとうございます! スーパーよりも八百勝さんのお野菜のほうが、断然美味しいですから!」
 マリアは如才なく応える。

「嬉しいこと言ってくれるねぇ! 端数はいらないよ、また来てくれよな!」

「はい! 明日も来ます!」
 マリアは学校で見せないような笑顔を振りまき、店を離れた。


 それを遠目に見ていた別の客が、マサルに話しかけた。
「ちょっと、あなた! あの子ばっかりずるいじゃないの! 依怙贔屓だわ!」

「奥さん、それは違います」

「なにが違うのよ! あの子が若くて可愛いからあんたも鼻の下伸ばしてるんでしょ? あんな不良みたいな子に」

「マリアちゃんはそんな子じゃありません。先日の町の奉仕作業で、うちの前の道路を綺麗にしてくれました。排水溝のドロも彼女がショベルでさらえてたんですよ?」

「あ、あたくしだって家の庭掃除くらいしますわ!」

「それだけじゃないです。このまえ俺がヘマしてワゴンの野菜をぶっちゃけた時、マリアちゃんはすぐ駆け寄って一緒に拾ってくれました。奥さんも偶然あの時いましたが、気にもとめてませんでしたよね」

「そんなのあたしに関係ないことじゃない!」

「はい、そうですね。だけど、俺がどちらにおまけしたくなるかは分かってもらえたと思います。それに、マリアちゃんは俺のことを名前で呼んでくれますが、奥さんにはあなたとかあんたとしか言われたことがないです」

 客は口をつぐんだ。








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