第56話 三三2 朝帰り 

文字数 1,310文字

朝顔の露が落ちる前に手紙を書こうと、帰り道の途中でもどかしく、「麻が生えている下草の」など考え、口ずさみつつ、自分の部屋の近くまで戻り途中で、建物の格子戸が少しあがっており                                                                                                                                                                                                                                  御簾の端をちょっと引上げて見ると、朝早く起きて去っていった恋人のことを考えると面白く思えて、露もしみじみとした情趣があるものだと思う。しばし立って見ていると、枕上の方に、朴に紫の紙を張った扇が、広げたまま置いてある。陸奥紙の懐紙を細かく切ったものが、花色か紅色か、色が美しく映えているものが、几帳のあたりに散らばっている。人の気配を感じてか、被った衣の下から見ると、男が笑いながら長押に寄りかかり座っている。恥ずかしがるほどの間柄の人でもなく、だがうちとけて心を許すほどの人でもないので、いまいましい所を見られてしまった、と思う。(男)「格別に別れを惜しんでの、御朝寝ですかな」といって、簾の内になかば入りそうなので、(女)「露が落ちるより早く帰った人が憎らしいので」と言う。風情あることで、とり立てて書くべきではないけれど、あれやこれやと言い交わす様子は、悪くないものである。枕の上にある扇を、男が持っている扇でかき寄せようとするので、あまり近く寄って来るので、心がときめいて、奥へ引き下がってしまう。男は扇を取って見ながら、(男)「よそよそしくなさることですね」など、ほのめかし恨めしそうにするうちに、明かるくなり、人の声々もするし、日も出でてきた。霧の絶え間が見えはじめ、男は急いで書こうと思った文も、気合が抜けてしまった状態で、後めたく思っているにちがいない。女の家を出ていった恋人も、いつの間にか使いの者を寄越しており、萩の露がついた枝を折り取った先に文を付けてきたが、他の男がいるので、さし出せずにいる。香の紙の相当焚き染めた匂いが、風流さをうかがわせる。あまりにも体裁が悪いような時刻になったので、男は立ち去っていくのだけれど、自分が女の所で寝起きした跡でもこんな状態だったのではないかと思いやられるのも、風情があると思っているのではなかろうか。
※昔の高貴な方は男女交際が活発だったのですね。たしか夜這いというのが、当たり前に行われていたということを、かつて聞いたことがありますが、清少納言様の体験ではなく、一緒に働いて居た女房たちのことでしょうか。徒然草では兼好法師が出家していたので、色恋の話はまったくありません。枕草子で最初から、男女関係の話が多く、なかなか納得し同感ですという具合にいかないのが残念です。タイトルを「枕草に納得」としたが「枕草に途惑う」にしたいと思っている。

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