第129話 七八2 返事  

文字数 850文字

 皆なが寝て、翌朝、いと早く局におりたところ、源中将の声で、「ここに草の庵という人はいますか」と、仰々しく言うので、(清少)「あやしき者。どうして、そのような賤しい人がいましょうか。玉の台とお求めになるのでしたら、お答えもしましょう」と言う。
 (宣方)「あなうれし。下の局にいたのですね。中宮のほうを尋ねてみようかと思ったのだが」と言って、昨夜あった、(実方)「頭の中将の宿直所に、大勢人々が集まってきて、六位まで集まりて、いろんな人の噂や、昔、今と語りあってついでに、(斉信)『なおここの女房を、むげに絶交してみたけれどその後になり、さすがに、何とも言えない。もしや何か言ってきはしないかと待てど、いささか何とも言ってこずつれないものだ。
 いまいましいので、今宵は悪い女か良い女か見定めてやろうではないか』とて、皆で言い合わせたことを書き持って行かせたが、『ただ今は見ないでおこう、といって、奥に入ってしまった』と、主殿司が言うので、また使いを追いかえして、(斉信)『ただ、手をつかまえて、有無をいわせず返事を乞い取りてくるか、持って来れないならば、文を取り返してこい』と、言い聞かせてて、降りしきる雨のなかを、行かせたのだが、早々に帰り来たり。『これです』といって、さし出したのが、こちらが出した文を、返してきたのかと思い、見たところ、すぐに大声を出すので『なんでござるか。いかなることぞ』と、皆、寄りて見るに、(斉信)『とんでもない盗人を。なお、えこそ思い捨て置けたものではない』とて、見騒ぎて、(斉信)『これが本の句を、付けてやらむ。源中将、付けよ』など、夜ふくるまで、付けるのを苦労し、結局辞めてしまったことは、ゆく先もかならず語り伝ふべきことだろう、など、皆で定めたことであった」など、いみじう笑止千万なことを言ひきかせて、
(宣方)「今はあなたの御名をば、草の庵と、付けています」とて、急ぎ立ち去ってしまった。(清少)「いと悪い名の、末の世まで残るなど、残念なことです」と言っている間に、
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