第139話 八三6 昨日あった雪が

文字数 632文字

暗いうちに起きて、折櫃(木の食事用容器)などを準備させ、(清少)「これに、雪の白いところを入れて、持ってきて頂戴。汚い部分は掻き落としすてて」など言いやったところ、すぐに戻って来て、もたせた折櫃をぶらさげて、(使)「早くに雪は失せていました」と言うので、事の意外さにただあきれるばかりで、上手に歌を詠んで人々にも語り伝えさせようと思っていたのに、苦労して作った歌も、情けなくも価値が無くなってしまった。(清少)「どうして、そんなことになってしまったのだろう。昨日までは、そんな状態じゃなかったものを、夜のうちに消えてしまったということ」と言い落胆していると、(使)「木守が申しますには、『昨日、いと暗き時間までは雪はあったのです。これで、ご褒美がもらえるものと思っていたいたのに』とて、手を打って騒いでいました」などと、言い騒いでいると、内裏より仰せ事の文があった。(宮)「さて、雪は今日までありや」と、仰せなので、ひどくいまいましいけれど、(清少)「『年のうち、一日までも雪は残っていないだろう』と皆様が中宮に仰っていたでしょうが、雪は昨日の夕暮れ時まで残っていましたのは、見事というほかにはないように存じます。今日まで残るということは、あまりえないことではございませんでしょうか。夜の間に、私の予想が当たりそうなのを、人が憎んで、雪を取り捨ててしまったのでしょうと、と私は推測しているのでございます、と奏上させたまえ」などとし、中宮へのお返事とさせてもらった。
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