第10話 五1 門狭く入車不可 徒然草 

文字数 1,397文字

□中宮職の三等官である大進(だいじん)の生昌(なりまさ)の家に、中宮がお出ましになるときに、東の門を親柱に4本控柱のある四足に改造された、それより中宮の御輿は入らせたまう。北の門より、女房の車も、まだ警備の詰め所の陣がないだろうと考え、入ろうと思って、髪の手入れも充分繕っていなかったので、車を寄せて玄関に降りるものと思い高をくくっていたのだが、高貴な方が乗るヤシの葉の檳榔毛の車などは、門が小さいと、さし障りて入らないので、例によって、筵(むしろ)道を敷きて降りることになってしまって、何とも憎く腹立たたしいけれども、いかがしようもない。殿上人、昇殿を許されない地下の人までも、陣に立って添い見ているのも、誠に忌ま忌ましい。
※中宮といえば天皇の奥方であり、その女房といえば、相当な位の高い人々であると思われる。尊貴な方に対して大進の生昌は、あまりにも配慮が足りない。高貴な大型名車が入る場合は門の広いのを準備せねば成らないだろうに。事と次第によっては打ち首になろうに。などと勝手に推測しているのですが、清少納言さんは相当ご立腹です。

□中宮の御前に参りて、ありつる出来事を申しあげると、中宮は「気のおけないというこの場所にいても、人が見ていないということがあろうか。どうして、そのように気をゆるしたのか」と、笑わせ給われた。(清少)「されどそれは、目馴れている人ばかりですから、よく私が飾り立てたならば、驚く人もおられるでしょう。さても、これほどの家で車が入らない門などがあるのでしょうか。生昌が見えたら、笑ってあげましょう」など言っているところへ、生昌が「これ、中宮に差し上げてください」とて、御硯など差し入れに来る。(清少)「まあ、なんとみっともない事でしょう。どうして、あの門は、狭く造られて住んでいらっしゃるのですか」と言えば、笑って、「家のほど、身の程に合わせているつもりです」と答える。「だけど、門に限っていえば高く造られた人もいらっしゃたのでは」と言えば、「あな恐ろしや」と驚きて、「それは漢で門を高くした宇定国のことでございましょう。古い時代に試験に合格した進士などでなければ、承っても知るべき由もありません。たまたま私はこの道に入りましたので、これ位の事はわきまえて知っておりますが」と言う。「あなたのその道も、それ程度なの、あまり賢くないようですね。筵道を敷いてあるけれど、皆はでこぼこ道に足をとられ大騒ぎでしたよ」と言えば、「雨が降りましたので、そのようなこともあったでしょう。よしよし、またいろいろ仰せられることがあるでしょうが、これで失礼します」とて、去っていく。中宮が「なにごとかあったのですか。生昌がいみじう恐れ入っているようでしたが」と問はせたまう。「いいえ。車が入らなかったこと言っていたのでございます」と申して、部屋に下がった。
※枕草子面白いですね。微妙な言葉が難しい。清少納言さんも賢いひとで、生昌さんも門の作りが狭いと攻められましたが、古事を持ち出し門だけ高くした人のように貴方も将来の出世を考えないですかと皮肉る。多少、古事の道を知っていると自慢したところ、貴方の道もたいしたことないと筵道のことを古事の道に掛け、でこぼこしてろくでもないという。生昌さんも、タジタジ。これからも随所にこんな場面が出てくるのですか。読む方も気を引き締めていかないと。

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