第149話 九五‐5 父元輔を上回る歌はできません

文字数 682文字

「ほんとうにこれで安心いたしました。有難うございます。今こういうことになりましたので、歌のことは思い悩むことが無くなりました」などと言っている頃、中宮が庚申の催しをなさるということで内大臣殿が、非常に気合をいれて設営されておられました。
夜も更けたころに、題を出して、女房に歌を詠ませたまう。皆は気色ばみ、必死になって歌を作っていたが、私は中宮の前でお話し申し上げたり、他のことばかりを言っている所を、大臣がご覧になって、(伊周)「なんで、歌を詠まないで、勝手に離れているのだ。題を取って歌を詠みなさい」と宣うので(清少)「中宮から御許可を戴いて、歌は詠まなくてもよいことになりました。」と申し上げた。(伊周)「これは異様なこと。本当にそのようなことをなっさったのですか。なんで、そのような勝手なことを許されたのでございましょうか。あるまじきことで御座候。他の時はいざ知らず、今宵だけは詠み給え」など、御責めになるのだが、断固聞き入れないで中宮の側に侍っていると、女房は皆、題を詠みだして良し悪しなどを定めているうちに、ちょっとした文を中宮が書かれ、私のほうへ投げて賜われた。見ると
  元輔が後と言わるる君しもや今宵の歌にはづれてはをる
とあるのを見るにつけても、おもしろいこと、類まれなること思った。いみじう私が笑うと、「何事だ、なにごとぞ」と、大臣が問い給う。
  (清少)「その人の後と言われぬ身なりせば今宵の歌をまづぞ詠ままし
  父元輔の娘として、遠慮しなくてもよいと言われる身でありましたらば、千首の歌でも私から進んでも詠みましたでしょうに」と申し上げました。
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