第149話 八九 琵琶と笙

文字数 726文字

無名という琵琶の御琴を、帝が持って中宮の部屋へお越しになった。女房達が拝見したりかき鳴らしたりするのだが、弾くというのではなく、弦などを手でまさぐる程度のことをしていた、(清少)「この御琴の名前は、なんというのでしょうか」とお尋ねすると、(宮)「ただまったくはっきりしないもので、名もないものである」と、のたまわれのは、なんとも素晴らしいことのように思われた。
 淑景舎の方などがいらっしゃっていて、御物語りのついでに、(淑景舎)「私の所に、とても立派な笙の笛があります。故人である殿が私に下さったものです」とのたまわれるのを、僧都の君である中宮の兄弟、(龍円)、「その笙を龍円にお譲りくださいませんか。私の手元に目出度き琴がありますので。それと交換してくれませんか」と申されたのだけれど、淑景舎はお聞き入れなさらず、他の話ばかりをされるので、申し出に答えていただこうと何度も、お聞きになるのですが、なおなにもおっしゃらないので、中宮は「いいえ、交換しません、と思ってられるのに」と、おっしゃった御様子がとても才気があふれる感じですばらしかった。
この御笛の名を、僧都の君もよくご存じではなかったので、ただ恨めしくお思いになっていた。これは、中宮が職の御曹司にいらっしゃる頃のことだった。帝の御前にいなかへじという御笛があるのでだった。
 帝の御前にあるものは、御琴も御笛も、皆珍しい名前がついている。
 玄上、牧馬、井出、いく橋、無名など。また和琴なども、朽目、塩釜、二貫などといわれる。水竜、小水竜、宇田の法師、釘打、葉二、なにかと多く聞いたのだけれど忘れてしまった。
「宜陽殿の第一の棚におかれるべきもの」という言い草は、頭の中将こそがいわれたものだった。
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