第41話 親友

文字数 876文字

 選挙以後、同級生から連絡はなく、ただ一人を除いては、事務所を訪ねてくる友人もいなかった。
 小学校入学から中学卒業まで、ずっと同じクラスだった沢田信幸くんは、選挙後よく事務所に顔を見せた。ノブちゃんとは、不思議と気が合い、昔はよく一緒に遊んだ仲だ。
 中学時代のクラブ活動は、同じサッカー部だった。
 よく週末の練習をサボっては、友達を集めて市民グラウンドで思い切りボールを蹴って走り回った。おかげで、レギュラーとは無縁だったが、先輩後輩といった枠を越えた自由な付き合いができた。クラスはもちろん、町内も関係ない。同学年の男勝りな女子もいれば、名前も知らない下級生も交じっていた。
 こんな関係を選挙に生かせたら理想だが、利益や欲得とは別な子どもの世界だから実現したのかもしれない。
 その人集めに一役買ってくれたのが、ノブちゃんだった。毎回ボールを提供してリーダー役を果たしたのは僕だったが、いろんな所から仲間を集めてきていたのはノブちゃんだ。
 選挙に関して表立って運動することはなかったが、陰では一生懸命に応援してくれていたようだ。白鷺町から遠く離れた町の撚糸工場で、「沢田さんから頼まれてるんです。がんばってください」と若い工員さんが力強く僕の手を握った。地域を越えた運動の広がりを実感し、心の中で深く耕ちゃんに感謝した。
 ノブちゃんの応援の仕方は、なぜか落選後のほうが熱心だった。選挙運動の協力者というより、ただ友達としてそばにいてくれたというほうが正確かもしれない。
 同級生を集めて河原でゴミ拾いをして、環境を考えるきっかけにするという提案もしてくれた。しかし、そこから日常的な環境保全活動に結びつけるには距離があるし、中学の級友で同じサッカー仲間の藤山君からは、「無理をして同級生から活動を広げようとすると、離れていく者も出てくるぞ。どんなにがんばっても、学生時代のつながりでは、あのくらいの票にしかならんのやから」と忠告を受けた。
 結局、耕ちゃんの提案は実現できなかったが、落選後に夢を語れる親友の存在は何にも増して力強かった。
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