第43話 ミサンガに願いを
文字数 899文字
香山さんの勤める幼稚園は、古い木造の建物だった。玄関に立つと、廊下の奥から吹いてくる柔らかい初夏の風が、優しく頬を撫でた。
「こんにちはー」
静かだった廊下の奥から、バタバタと元気な足音が駆けてきた。
女の子が二人立ち止まり、不思議そうな顔でこちらを見ると、何も言わずに走り去った。足音が消えた廊下の向こうから、静かに歩を進めるサンダルの音が聞こえてきた。
「あらぁ、こんにちは」
白いTシャツにジーンズ姿の香山さんが、涼やかな笑顔で僕を迎えると、来客用のスリッパを差し出した。
香山さんは自分が担任する教室で、ミサンガを編んでいた。三、四人の子どもたちが遊びに来ているようで、廊下のつきあたりの遊戯室から時々教室にも顔を出し、「ゆきちゃんの友達なんか?」と尋ねてくる。女の子たちは香山さんが作ったミサンガをもらい、廊下へ走っていった。
選挙で一生懸命応援してくれた香山さんに、市長や耕ちゃんのことを詳しく話し、今もちゃんと活動していることをアピールした。そして、選挙以外のことも、いろいろと話した。
彼女の趣味は、ダイビングとガラス工芸だった。ミサンガやビーズアクセサリーを作るのが好きで、できたものをよく友達にあげたりしているという。
「気に入ったのがあったら、あげるよ」
色とりどりのミサンガが入った小箱を差し出す彼女の手首にも、赤と青の二本が巻かれていた。
「じゃあ、これもらっていいかな」
僕が選んだミサンガには、紺碧の海を泳ぐ魚の姿が編み込まれていた。
「それ、私のお気に入りなの。でもいいよ。あげるわ。」
世界でただ一つのミサンガに、当選の願かけをし、彼女にもそれを約束した。
フランスの食器やバリ島のアクセサリーなど、店の商品のことを話すあいだ、彼女は時々頷きながら興味深そうに聞いていた。
「倉知君のお店で、私も一緒に手作りアクセサリーを売ろうかな」
「いいね。売れると思うよ。一緒に店をしようか」
ミサンガを編みながら微笑む彼女に、僕も笑って答えた。冗談だったけれど、気持ちに嘘はなかった。戯れの中にある本心が自然に伝わることを、僕はひそかに願っていた。
「こんにちはー」
静かだった廊下の奥から、バタバタと元気な足音が駆けてきた。
女の子が二人立ち止まり、不思議そうな顔でこちらを見ると、何も言わずに走り去った。足音が消えた廊下の向こうから、静かに歩を進めるサンダルの音が聞こえてきた。
「あらぁ、こんにちは」
白いTシャツにジーンズ姿の香山さんが、涼やかな笑顔で僕を迎えると、来客用のスリッパを差し出した。
香山さんは自分が担任する教室で、ミサンガを編んでいた。三、四人の子どもたちが遊びに来ているようで、廊下のつきあたりの遊戯室から時々教室にも顔を出し、「ゆきちゃんの友達なんか?」と尋ねてくる。女の子たちは香山さんが作ったミサンガをもらい、廊下へ走っていった。
選挙で一生懸命応援してくれた香山さんに、市長や耕ちゃんのことを詳しく話し、今もちゃんと活動していることをアピールした。そして、選挙以外のことも、いろいろと話した。
彼女の趣味は、ダイビングとガラス工芸だった。ミサンガやビーズアクセサリーを作るのが好きで、できたものをよく友達にあげたりしているという。
「気に入ったのがあったら、あげるよ」
色とりどりのミサンガが入った小箱を差し出す彼女の手首にも、赤と青の二本が巻かれていた。
「じゃあ、これもらっていいかな」
僕が選んだミサンガには、紺碧の海を泳ぐ魚の姿が編み込まれていた。
「それ、私のお気に入りなの。でもいいよ。あげるわ。」
世界でただ一つのミサンガに、当選の願かけをし、彼女にもそれを約束した。
フランスの食器やバリ島のアクセサリーなど、店の商品のことを話すあいだ、彼女は時々頷きながら興味深そうに聞いていた。
「倉知君のお店で、私も一緒に手作りアクセサリーを売ろうかな」
「いいね。売れると思うよ。一緒に店をしようか」
ミサンガを編みながら微笑む彼女に、僕も笑って答えた。冗談だったけれど、気持ちに嘘はなかった。戯れの中にある本心が自然に伝わることを、僕はひそかに願っていた。