第18話 大雪の夜に

文字数 820文字

 一月最後の水曜日、中学の同級生に集まってもらった。雪が激しく降る夜だった。告示まで残り十日である。
 星野川に残っている者で、連絡が取れたのは十二人。集まったのは、六人だけだった。事務所の入口で出迎えて、二階に上がってもらう。下の部屋では、父と母が正座して迎え、丁寧に頭を下げて礼を言った。
 十三年が経ってもほとんど変わらない人もいれば、激変している者もいて驚かされる。陸上部所属で百メートル十一秒台のスプリンター田代君は、すでに中年の体型になり、記憶との照合に手間取った。
 さらに驚いたことがあった。
「こんばんは」と入ってきた女性の、雪に濡れた黒々としたショートカットの前髪をかき上げた姿が、あまりに輝いて見えたのだ。一目見て、美しい人だと思った。その瞬間は迷ったが、すぐに誰か分かった。
 幼稚園の先生をしている香山雪恵さんだ。同級生の住所を調べるために卒業アルバムをめくったとき、集合写真の中の可愛らしい香山さんに目が留まったほどだ。当時は何とも思っていなかったのだが、今写真を見返してみると、その可愛さは誰もが認めるものだと思う。
 しかし、その延長線上にある成熟し完成された美しさまでは想像していなかった。黒いハーフのダウンジャケットに細身のストレートジーンズ、ショートブーツ姿は、ボーイッシュな活発さとともに、シンプルな装いで落ち着いた大人の雰囲気を感じさせる。流行に敏感な都会の女性と比べても遜色なく、どこにも無理がないぶん自然でかっこよかった。
 みんなでお互いの近況を報告し合い、僕は立候補までの経緯を話した。それから十枚ずつ名刺を配り、知り合いに渡してくれるように頼んだ。
 もう同級生による支援組織を作る気持ちはなかった。
「佐久ちゃんも白鷺町なんやろ。一緒に運動してくれんのか」という田代君の厳しい問いかけに、「仕事が忙しいらしいんや」と苦笑する。この大雪では、建設現場の仕事は休みのはずだ。苦しい嘘だった。
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