第60話 諦念

文字数 465文字

 あまりの手応えのなさに、情熱は失われつつあった。
 立候補を決めたとき、気持ちは政治家ではなく、坂本龍馬や高杉晋作のような志士であった。自らに見返りを求めない純粋な志があれば、人の気持ちを動かせるものと信じていた。しかし、思いは届かなかった。
 なぜ、星野川市が変わらないのか、いや変わらないどころか、人口五万人を超えて市に昇格した三十年前から、今や四万人を切るまでに漸減して、過疎化、高齢化の一途をたどるばかりである。
 僕は、その理由に気づき始めていた。
 なぜ議員の多くは年寄りで、なぜ箱物ばかり造るのか。なぜ倒産が相次ぎ、新たな産業を起こせないのか。
 すべては、この町に暮らす大多数の有権者が望んだことなのだろうと思う。市民ではなく地域住民として地域代表議員を選び、その町内に長年暮らした年配議員が、地区に有利になるように政治を動かしていく。市の将来像もなく、さまざまな有権者の求めに応じた公共事業により、一貫性のない町が造られていく。
 すべては、目先の利益を求めた投票が、ヴィジョンのない政治家を生んだ結果なのだ。
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