第22話 選挙カー走る

文字数 514文字

 雨は小降りになってきた。もうすぐ雪になるのだろう。すでに、必勝の文字が入った鉢巻はびっしょりと濡れて、額から眉、瞼へと雫が伝う。
 ひどく緊張していた。興奮と言っていいかもしれない。
 いよいよ選挙戦が始まる。
 壇上まで三段の階段を上がるとそこからは、傘を背中に傾けてこちらを見つめる人の顔が、はっきりと見えた。マイクが震えないように、両手でしっかりと握り締める。冷たい雨の中で、顔が熱くなっていく。赤くなっているかもしれないが、びしょ濡れの姿からは誰も緊張した様子は読み取れないだろう。
 胸は高鳴っていた。
 出陣式の前に白石さんから「町内のためにがんばる」という内容を演説に盛り込んでほしいと言われ、急遽話を変更したことに戸惑いがあったからかもしれない。これまで何度も話してきたことであったが、途中を飛ばしたことに気づいて余計に焦る。それでも何とか辻褄を合わせて話をまとめ、無事に演説を終えた。
 車に乗り込む前に、集まってくれた人たちと握手を交わす。
 最後に門先生の手を両手でしっかりと握り、大きな声でお礼を言った。「がんばってな」という太く力強い言葉に応えて、もう一度握手をしてから、ワゴンの助手席に飛び乗った。
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