最終話 補選八ヵ月後

文字数 751文字

 当選からすでに八ヶ月が経つ。落選から早四年が過ぎた。
 現在、市議会議員選挙の真最中だ。もうすぐ、僕の任期も終わる。

 二月、灰色の空の下で、ぼんやりと掲示板を眺めている。先ほどから、小雪が舞い降り始めた。車は、近くのスーパーの駐車場に停めてある。四年前、街頭演説をした場所だ。
 掲示板には、二十四人の候補者の顔が並んでいる。
 なぜだろう。ひどく感慨深い。
 去年の補選ではなく、四年前のことが思い出される。ここに自分の写真があったのだ。それが不思議に思われる。
 今頃、候補者たちは、選挙カーで走り回っていることだろう。遠くでスピーカーの声がする。定数は二十人である。四人は確実に落選する。
「苦しい選挙戦を戦っております!」
 ウグイス嬢は、そう連呼しているだろう。
 そしてきっと、この土地にふさわしい者が当選する。政治家は、有権者を映す鏡である。
 四年前の自分にとっても、確かに苦しい戦いであった。去年も決して、楽に勝てたわけではない。もし今年出たとしても、どうなったかは分からない。そもそも、これまでの人生で、そんなに楽なことなんてあっただろうか。
 一週間後、この町を出て行く。これからもきっと苦しい戦いだろう。逃げ込める場所など、どこにもないのだ。
 そして、二度と選挙に出ることはない。もし市長になれたなら、この町と、ここに住む人の意識を変えられるのではないか。そんな思いもよぎったが、もう決めたことなのだ。故郷に戻るつもりはない。

 懐かしい青春の思い出。
 使い古された言葉だが、言い得て妙だ。そう、懐かしいのだ。
 選挙の掲示板が、卒業アルバムに見える。
 再び戻ることのない場所。自分不在の卒業写真。
 四年前の自分の姿を思い浮かべながら、ひとり掲示板を眺めている。
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