第78話 最後の予感

文字数 388文字

 翌朝、天神町のおじさんが訪ねてきた。今夜の集会についての話だった。
「その場で『やめる』言うたらあかんざ。やめるのはいつでもやめられるんやで。一晩ゆっくり考えてから、答えを出せばいいんやで」
 心配そうな顔で、僕に忠告した。父とは反対の意見だった。
「昨日のことは気にせんでもいいんやで。今日さえしのげれば、選挙運動が始められるんやでの」
 やはり、昨晩の役員会の具体的な発言については、まったく伝えられることはなかった。おじさんは一言だけ、父の様子について語った。父は、ただじっとうつむいたまま、役員たちの批判を黙って聞いていたそうだ。なんら反論もせず、言われるがままだったという。悔しさを噛みこらえていたのだろう。
 僕も、ともかくも逃げずに最後まで話だけは聞こうと、覚悟を決めて夜を待った。
 今回のこの選挙が、僕にとって最後の選挙になりそうな、そんな予感がしていた。
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