第48話 最後のドライブ
文字数 562文字
最後に一度だけ、夜のドライブに出かけた。
季節はすでに秋であった。十五夜の月に、雲が掛かり始めていた。
冷たく澄んだヘッドライトの光が、アスファルトを煌々と照らし出す。ふと僕の視界の左端で、香山さんがこっちを見ているのに気づいた。
「私、結婚するの」
突然の宣告だった。
驚いて、彼女のほうを見た。街灯にかすかに照らされた顔は、冴え渡る月影のように静かに微笑んでいた。
「いつ? どうして、急に…」
動揺を隠せなかった。
「いつにするかは決めてない。まだ彼にも話してないよ。でも、私が決めたから、結婚するの」
その口調は力強く、彼女の固い決心が伝わった。
恋人は、彼女がガラス細工の指導を受けているガラス職人だ。以前、両親から反対されていると聞いたことがある。彼女の中で、障壁を乗り越えるだけの気持ちが固まったのだろう。
「私が生まれて初めて告白して付き合った人だから、絶対に別れられないの」
決意に満ちた言葉は、すでに結婚を止める資格を失った僕への、最後の反撃にも感じられた。
帰りの運転は荒かった。派手にハンドルを切り、アクセルを踏み込む。彼女はスピードに怯えながらも、「二人で事故ったら、大問題でしょう」と冷ややかに責めた。
言葉少なに、夜の闇を駆け抜ける。
揺さぶりたいのは、彼女の心だった。
季節はすでに秋であった。十五夜の月に、雲が掛かり始めていた。
冷たく澄んだヘッドライトの光が、アスファルトを煌々と照らし出す。ふと僕の視界の左端で、香山さんがこっちを見ているのに気づいた。
「私、結婚するの」
突然の宣告だった。
驚いて、彼女のほうを見た。街灯にかすかに照らされた顔は、冴え渡る月影のように静かに微笑んでいた。
「いつ? どうして、急に…」
動揺を隠せなかった。
「いつにするかは決めてない。まだ彼にも話してないよ。でも、私が決めたから、結婚するの」
その口調は力強く、彼女の固い決心が伝わった。
恋人は、彼女がガラス細工の指導を受けているガラス職人だ。以前、両親から反対されていると聞いたことがある。彼女の中で、障壁を乗り越えるだけの気持ちが固まったのだろう。
「私が生まれて初めて告白して付き合った人だから、絶対に別れられないの」
決意に満ちた言葉は、すでに結婚を止める資格を失った僕への、最後の反撃にも感じられた。
帰りの運転は荒かった。派手にハンドルを切り、アクセルを踏み込む。彼女はスピードに怯えながらも、「二人で事故ったら、大問題でしょう」と冷ややかに責めた。
言葉少なに、夜の闇を駆け抜ける。
揺さぶりたいのは、彼女の心だった。