第三十八話、指紋とグラス
文字数 1,954文字
俺は後回しか、エドワードは微妙な表情を見せた。
割れたグラスは、行方不明の客が強盗に投げた割れたグラスである。カーシーは大きい茶封筒の中から指紋がうつった写真をだした。
指紋の照合は、前科者の記録から、手作業で行われることになる。人手と時間がかかった。
それから、三十分ほど、話をして、指紋と証拠品のグラスを持ってイーサンとエドワードはテレーズ市警を出た。
「どうだろう。課長が判断することだが、分室までは捨てなくて良いんじゃないか。名前を知られているのは君だけだし、分室の場所なんてバッジには、かいていない。まぁ、君に関しては、しばらく家に帰らない方がいいだろうね」
イーサンとエドワードは第九分室へ向かった。
イーサンとエドワードは第九分室に戻り、課長のブライアン・フロストに報告した。
ブライアン・フロストはイーサンから指紋が写っている写真を受け取った。
「ああ、本格的に集め出したのは、ここ、二、三十年の話だがな、昔の吸血鬼の私物などからも採取しているらしくて、古い奴だと千二百年前の指紋とかも残っているらしいぞ。あと、イーサンの昔の指紋もちゃんと残っている」
イーサンは肩眉を上げた。
シャロン・ザヤットはビニール袋に入った割れたグラスを慎重に受け取った。
イーサンはいった。
デニー・ウィルソンはいささか後悔していた。
バッジを見た瞬間、早く逃げないといけない。そのことしか考えられなくなっていた。
認識阻害の魔術を、バーにいた人間に、めいっぱいかけ、飛ぶように店から出た。外に出ると町のあちこちに警察官が居た。強盗を追っていた警察官なのだろう。それらに気づかれぬよう認識阻害の魔術を強めにかけながら歩いた。
客の一人が急に消えたのだ。顔がわからなくても、怪しまれる可能性はある。いや、顔がわからないから怪しまれるのかも知れない。そういう風にも考えられた。
強盗事件に関して、吸血鬼である自分が、調書を受けるわけにもいかない。偽の身分証ぐらい用意しているが、朝までかかる可能性もあるし、もう一度昼間に来てくださいとかいわれたら、ちょっと困る。どこかの段階で逃げる必要性があった。ただ、せめて店の外に出てから行方をくらませれば良かったと後悔していた。狭い店内で、急に人が一人居なくなるのは、やはり怪しい。
捜査官も含め、店にいた人間全員を殺すという選択肢もあったが、デニー・ウィルソンの性格的にそれはできなかった。やれたとしても、バーにいた人間をすべて殺していたら、それはそれで大いに怪しまれる結果になったであろう。
今更取り返しはつかない。
デニー・ウィルソンは背を伸ばした。
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