第三十三話、地下室
文字数 1,148文字
ポーラは、使い魔を使って外の様子を見るのをやめた。空から投下される爆弾の音と壊れていく家の音を聞いていた。
悲しみも怒りもあったが、それに身を焦がすほど、若くはなかった。ただ、もう、これで終わるのだなという、あきらめの気持ちが強かった。
地下室の天井は分厚く作られているため、爆弾ぐらいではびくともしない。だが、地下室に逃げ場はなかった。ただ一室あるだけだった。
すねたような口調で口に出してみたが、よくよく考えると、ポーラも空を飛んで移動して人間の血を吸っていることを思い出し、人のことは言えないなと、少し笑った。
屋敷全体に様々な罠が張り巡らされていた。庭先には串刺しの罠、踏めばレイスが召喚され死の抱擁をもたらす罠、玄関には酸の罠、室内には各種毒ガスが吹き出す仕掛けがあり、数体のゴーレムが屋敷内を守っていた。
それらは、すべて上空からの爆弾で破壊された。庭先にいくつか罠は残っているが、きっとそれらも破壊されるだろう。
だからといって、生き残るすべが全くないかというと、そうでも無いとも思っていた。夜、日が落ちれば、吸血鬼捜査官になすすべはない。日が落ちるまで、地下室に籠もることができればいい。
勝ち目は薄いかもしれないが。
ポーラは自身の背丈ぐらいの大きさのあるクロスボウを手に取った。
一部の壁や柱を残し、屋敷は崩壊していた。瓦礫が積み上がり、噴煙が立ちこめていた。
イーサン達が居る方角に向かって、飛行船を進めながら、爆弾をいくつか投下していった。爆発に紛れ得体の知れない光や音が出た。
一通り投げた。
飛行船は帰って行った。
煙と焦げた匂い。建物の破片があちこちに飛び散っている。
イーサンは両手を広げた。
エドワードは肩を回した。
オーガスは去って行く飛行船を見ながらつぶやいた。
まだ壊れず残っている罠に警戒しながらも、イーサンとエドワード、二十人の男達と二頭の農耕馬は瓦礫の撤去を進めた。
二時間ほど、がれきをとりのぞいていると、瓦礫の下に地下室の入り口らしき鉄のとびらを見つけた。
汗をぬぐった。
午後二時三十分、日はまだ十分あった。
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