第三十三話、地下室

文字数 1,148文字

 ポーラは、使い魔を使って外の様子を見るのをやめた。空から投下される爆弾の音と壊れていく家の音を聞いていた。

 悲しみも怒りもあったが、それに身を焦がすほど、若くはなかった。ただ、もう、これで終わるのだなという、あきらめの気持ちが強かった。

 地下室の天井は分厚く作られているため、爆弾ぐらいではびくともしない。だが、地下室に逃げ場はなかった。ただ一室あるだけだった。


「空から攻撃してくるなんて、ずるいじゃない」


 すねたような口調で口に出してみたが、よくよく考えると、ポーラも空を飛んで移動して人間の血を吸っていることを思い出し、人のことは言えないなと、少し笑った。

 屋敷全体に様々な罠が張り巡らされていた。庭先には串刺しの罠、踏めばレイスが召喚され死の抱擁をもたらす罠、玄関には酸の罠、室内には各種毒ガスが吹き出す仕掛けがあり、数体のゴーレムが屋敷内を守っていた。

 それらは、すべて上空からの爆弾で破壊された。庭先にいくつか罠は残っているが、きっとそれらも破壊されるだろう。

 だからといって、生き残るすべが全くないかというと、そうでも無いとも思っていた。夜、日が落ちれば、吸血鬼捜査官になすすべはない。日が落ちるまで、地下室に籠もることができればいい。

 勝ち目は薄いかもしれないが。


「抵抗ぐらいは、しないとね」


 ポーラは自身の背丈ぐらいの大きさのあるクロスボウを手に取った。


 一部の壁や柱を残し、屋敷は崩壊していた。瓦礫が積み上がり、噴煙が立ちこめていた。


「庭にも罠が仕掛けられているかもしれない。私たちが居る方向に向かって、爆弾をいくつか落としてくれ」


「了解」


 イーサン達が居る方角に向かって、飛行船を進めながら、爆弾をいくつか投下していった。爆発に紛れ得体の知れない光や音が出た。

 一通り投げた。


「ありがとう。助かったよ。とどめはこちらで刺すから帰ってくれてかまわない」


「ご武運を」


「善処する」


 飛行船は帰って行った。


「さて、ここからが我々の出番だ」


「後片付けのお時間て訳だな」


 煙と焦げた匂い。建物の破片があちこちに飛び散っている。


「その通り、ただし、日没までに、瓦礫の下にある地下室の入り口を見つけ、吸血鬼を退治できなければ、片付けられるのは我々の方になる」


 イーサンは両手を広げた。


「がんばるしかないな」


 エドワードは肩を回した。


「いやだ。乗って帰りてぇ」


 オーガスは去って行く飛行船を見ながらつぶやいた。



 まだ壊れず残っている罠に警戒しながらも、イーサンとエドワード、二十人の男達と二頭の農耕馬は瓦礫の撤去を進めた。

 二時間ほど、がれきをとりのぞいていると、瓦礫の下に地下室の入り口らしき鉄のとびらを見つけた。


「何とか間に合ったな」


 汗をぬぐった。

 午後二時三十分、日はまだ十分あった。


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登場人物紹介

イーサン・クロムウェル

九百年間、吸血鬼だった男

エドワード・ノールズ

イーサンの相棒

モーリス

イーサンの元相棒

ブライアン・フロスト

吸血鬼対策課第九分室課長

シャロン・ザヤット

分析係

トム・ターナー

ミグラス市警殺人課の刑事

ビル・カークランド

吸血鬼対策課戦術部隊

パメラ・モートン

調達部

ヒーゲル

戦術班

ジェフリー・グレン

レイヴァン・アスカル

ラリー・ジョイス

オーガス・タルンド

ギャングの下っ端

ジム・ハモンド

ポーラ・リドゲード

ポーラ、子供時代

ブレア・モリンズ

ポーラ・リドゲードを警察に通報した夫人

村の老人

デニー・ウィルソン

強盗

強盗

カーシー・キャラバン

テレーズ市強盗殺人課の刑事

店主

コルム市警総務課、課長

デニー・ウィルソン

子供時代

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