第三十一話、ピクニック

文字数 1,162文字

 山の中腹に一軒の家が建っていた。三百年ほど前にたてられた元は貴族の別荘であった。そこに行くまでの道の名残はあったが、歳月と共に木々に覆われていた。


「あの家か」


 塀や門などは無く、二階建ての、どっしりとした古びた家が見えた。


「あの中に吸血鬼が居る。おそらく、ポーラ・リドゲードだろう」


 イーサンは手に持ったコインを指でさすりながら言った。魔力に反応するコインである。

 山の所有者はどう調べてもわからなかった。税金だけはしっかり振り込まれているため、誰かが居ることだけは間違いなかった。山に入って調べてみると、強い魔力の反応があり、半径一キロ程度の人よけの結界が張ってあることがわかった。


「もう、俺たちのことは気づかれてるよな」


「ここに来る途中に、人よけの結界を通ったからね。間違いなく気づかれてるよ」


 不安や恐れ、嫌悪感を感じる場所を通った。


「あんな変なところ二度と通りたくはないわ」


 パメラ・モートンが額の汗をぬぐいながら言った。


「別に無理して付いてこなくても良かったんだぜ」


「そういうわけにもいかないわ。私は現場主義なのよ。自分が調達した物を、最後まで現場に届ける責任があるのよ」


「そりゃ、ありがたいことで」


「ま、荷物を運んでくれる人がいて楽だったけどね」  


 パメラは後ろを振り返った。

 二十人ほど、荷物を背にしょっている男達と農耕馬が二頭居た。


「何で、俺達が、あんたらの協力をしなきゃならんのですかね」


 オーガス・タルンドが不満そうな顔で言った。オーガスはデラウェンでギャングをやっている男である。

「仕方ないだろ。吸血鬼退治に人手が居るから来てくれなんて、普通の人足に頼んだって来てくれないだろ」


「だからといって協力する義理は、もう無いはずなんですがね」


 オーガスとは、別の吸血鬼を退治する際協力しあった。


「そういうなよ。最近は取り締まりの方も厳しくなってるんだろ。まっとうな仕事ができて、人々に感謝される。いいことじゃないか」


「これのどこがまっとうな仕事ですか。やべぇやつでしょうに、まぁ、払うもんさえ払ってもらえれば、いいっちゃあいいですけどね」


 顔をそらした。吸血鬼に襲われた事件のおかげでオーガスが所属している組織は著しく弱体化していた。その上、地元の警察には、ばっちり目を付けられていた。


「それで、これからどうするんだ」


 エドワードはイーサンを見た。イーサンは空を見上げていた。


「少し早いが、昼飯にしよう」


 イーサンは背負い袋の中からワインボトルを取りだした。


 ポーラは屋敷の地下にいた。イーサン達の行動を使い魔を通じて見ていた。

 わざわざこんな山奥に、二十人もの人間が、二頭の馬と一緒に荷物を持って近づいてくる。


「ピクニックなわけないわよね」


 イーサン達が食事の準備を始める様子を見ながら、首をかしげた。


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登場人物紹介

イーサン・クロムウェル

九百年間、吸血鬼だった男

エドワード・ノールズ

イーサンの相棒

モーリス

イーサンの元相棒

ブライアン・フロスト

吸血鬼対策課第九分室課長

シャロン・ザヤット

分析係

トム・ターナー

ミグラス市警殺人課の刑事

ビル・カークランド

吸血鬼対策課戦術部隊

パメラ・モートン

調達部

ヒーゲル

戦術班

ジェフリー・グレン

レイヴァン・アスカル

ラリー・ジョイス

オーガス・タルンド

ギャングの下っ端

ジム・ハモンド

ポーラ・リドゲード

ポーラ、子供時代

ブレア・モリンズ

ポーラ・リドゲードを警察に通報した夫人

村の老人

デニー・ウィルソン

強盗

強盗

カーシー・キャラバン

テレーズ市強盗殺人課の刑事

店主

コルム市警総務課、課長

デニー・ウィルソン

子供時代

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