第四十一話、コルム市

文字数 1,301文字

「昔は何もないところだったのにな」


 イーサンとエドワードはカスタム地方、コルム市に来ていた。元は農村地帯であったが、開発が進み、住宅地になっていた。


「昔ってのは、いつの頃の話だ」


「魔術の実験場を探していた頃だから、五、六百年前のことかな。あの辺りに山があったはずだが、そうか、吹き飛ばしたか」


 東の方を見ながらいった。なだらかな平地に住宅地が連なっていた。


「さらっと、物騒なことをいっているな」


「昔のことさ、捜査を始めようじゃないか」


「ああ、何から調べる」


「とりあえず、地元の警察から情報を収集しよう」


「わかった」


 イーサンとエドワードはコルム市の警察に向かった。







「コルムの方では、なんというか、英雄とまでは、いいませんが、ちょっとした人気がありますよ」


 コルム市警総務課に来ていた。警察では総務課で吸血鬼に関する諸問題を対応していた。吸血鬼対策課は基本的に署内になく、分室という形で外にあった。吸血鬼対策課と警察を分けることによって、吸血鬼による報復が、警察に向かわないように考え出されたものである。

 コルム市にも吸血鬼対策課の分室はあるが、安全性を考え、他の分室の職員は基本接触しない。その場所もイーサン達は知らされていなかった。


「確か、戦争で活躍したとか」


 イーサンは百年ほど前のコルソルム戦争にデニー・ウィルソンが参戦していたことを思い出した。

「ええ、そうです。一晩で千人の兵を屠ったとか。さすが吸血鬼ですね」


「なぜ、彼は戦争に参加したんでしょうか」


「さぁ、その辺は私もよくわかりませんが、地元愛が強かったんじゃないですか」


 笑った。

「なるほど」


「しかし、吸血鬼でしょ。それが英雄って、まずいでしょ」


 エドワードは眉をひそめた。


「確かに、そうですね。吸血鬼ですからねぇ。ですが、彼のおかげで助かった命もあるわけですからね。町の人間が吸血鬼に襲われたって話も聞きませんし、ちょっとした守り神の様な存在になっちゃったんですよ」


「なるほど、しかし、戦争が終わったあと、彼はこの町から出ているのでは」


「ええ、まぁ、吸血鬼ってばれちゃあ、一緒に住めんでしょう。そこがまた、人気の出るところで、やることやって、後はさっと身を引く。いいでしょう」


「確かにそう言われてみると、いいかもしれん」


 エドワードは腕を組んでうなずいた。


「でしょう。後は時間が経てば、美化が進んで、ちょっとしたヒーローのできあがりです」


「四十年ほど前に女性が犠牲になった件で、こちらに捜査官が派遣されたはずです。その時の資料と、その後なにか、デニー・ウィルソン関係で新しい情報が無いか、教えていただきたい」


「四十年前ですか。ちょっと待ってください。調べてきますから」


 総合課の課長はソファーから立ち上がり、部屋を出ようとした。


「あっ、そうだ」


 立ち止まり振り返った。


「なんです」


「デニー・ウィルソンのことを知りたければ、博物館を尋ねてみれば良いですよ」


「博物館? デニー・ウィルソンのですか?」


 イーサンは驚いた表情を見せた。

「いえ、デニー・ウィルソンの博物館ではなく、コルソルム戦争戦勝記念博物館ですな。十五年ほど前にできたものです」


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登場人物紹介

イーサン・クロムウェル

九百年間、吸血鬼だった男

エドワード・ノールズ

イーサンの相棒

モーリス

イーサンの元相棒

ブライアン・フロスト

吸血鬼対策課第九分室課長

シャロン・ザヤット

分析係

トム・ターナー

ミグラス市警殺人課の刑事

ビル・カークランド

吸血鬼対策課戦術部隊

パメラ・モートン

調達部

ヒーゲル

戦術班

ジェフリー・グレン

レイヴァン・アスカル

ラリー・ジョイス

オーガス・タルンド

ギャングの下っ端

ジム・ハモンド

ポーラ・リドゲード

ポーラ、子供時代

ブレア・モリンズ

ポーラ・リドゲードを警察に通報した夫人

村の老人

デニー・ウィルソン

強盗

強盗

カーシー・キャラバン

テレーズ市強盗殺人課の刑事

店主

コルム市警総務課、課長

デニー・ウィルソン

子供時代

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