第四十話、照合
文字数 2,173文字
イーサンはブライアンの手元にある資料の束を見た。
「ああ、吸血鬼だ。デニー・ウィルソン、年齢は二百五十歳前後、元は、カスタム地方の農場主だったらしい。最後に目撃されたのは、四十年ほど前、ハーウインのミルタ通りで、血を吸った後の女性を担いで歩いているところを通行人に目撃された。声を上げられ、女性を捨ててミルタ通りを北に走って逃げたそうだ」
エドワードは机の上の資料を見た。
ブライアンは遠い目をした。
「融和と根絶、吸血鬼対策は昔からそういう波があったからね。だが、まぁ吸血鬼になった貴族は、すぐに見つかって、内密に処分された。その頃にできた風習が、お茶会やパーティー、貴族間の吸血鬼化を防ぐために考え出されたものだよ」
「その、息子が死んで、デニー・ウィルソンの痕跡は一度消える。次に出てきたのが、七十年後で、コルソルム戦争の最中だ。カスタム地方に攻めてきたソルムの軍隊を、人間と協力して撃退した。その後は故郷を追われて、どこかへ行っちまったそうだ」
資料を閉じた。
イーサンはうすく笑った。
エドワードはいやそうな顔をした。
シャロン・ザヤットがビニール袋に入った割れたグラスを持ち上げた。
「そうよ。術式のない純粋な魔力が残留していたわ。魔力測定器で測ったところ、残留している魔力量が七百五十mhもあったわ。二日ほど経ってこの数値だから、そうとうなもんよ。人間がこんな魔力使えば、一瞬でひからびちゃうわね」
シャロン・ザヤットは眉をひそめた。同僚が命からがら助かった話なのだが、問題はその同僚が、当時、吸血鬼であった点だ。
イーサンは資料の束を手に取った。
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