第二十七話、喫茶店の捜査会議

文字数 2,180文字

 市内の喫茶店で、イーサンとエドワード、それから、ブライアン・フロストとシャロン・ザヤットの計四人が集まっていた。


「何か進展はあったか」


 ブライアン・フロストがいった。第九分室が使えないため、定期的に場所を変え報告を受けている。


「今のところ何もない。現場の状況と目撃者の話を聞いただけで、ポーラ・リドゲードが潜伏している場所を特定できるだけの情報は無い」


 イーサンが答えた。


「そうか。シャロンは何かわかったか」



「現場に残されていたポーラ・リドゲードの肉片を調べてみたんだけど、再生力が強い血筋のようね」


 吸血鬼には、身体能力が高い血筋や、魔力が強い血筋など、いくつかの血筋がある。


「それで逃げられたんだな」


「年齢はどうなんだ」


「魔力計で計ってみたけど、百五十年から二百五十年ってとこね」


「手ごわい年齢だな」


 吸血鬼の力は年を取るごとに強くなっていく。
「むつかしい、お年頃ってわけね」

「他班はどうしているんですか」


 他の捜査員も、ポーラ・リドゲードの捜査にかり出されている。

「第四分室が下水道内を捜索したようだが、デリヌ通り周辺の下水で痕跡が途絶えたそうだ。代わりに別の吸血鬼の痕跡を見つけた。そっちの方も追っている。第七分室は、不動産関係を調べている。今のところ、ポーラ・リドゲードが関わっている怪しい建物は出てきていない」


「下水道は、何とかならないものなんですかね。吸血鬼がしょっちゅう、あそこに逃げ込んでいますよ」


「ならんよ。吸血鬼より疫病の方が恐いからな」


 吸血鬼一人につき、年間の吸血犠牲者は二十人程度、疫病が流行ると万単位の人間が死ぬ。


「昔の都市部では、糞尿は道に投げ捨てられていた。とにかく臭かったよ」


 イーサンは顔をしかめた。


「いつの時代の話だ」


「二百年ほど前かな、この辺りの、下水道工事には、私も影ながら尽力した」


「どうりで、下水管が広めに作られているわけね」


「直接川に流さず、汚水処理して流すように働きかけたのも私だ」


「ありがたいような、ありがたくないような話だな」


 顔をしかめた。


「今更、昔には戻れないさ。せいぜい時々マンホールのふたを開けて、太陽の光を当てながら、下水道のチェックをするぐらいしかできることはないね」


「ままならんもんですね」


「そうだな、地道に、がんばっていくしかないよ」


「それで、あれから、他に襲撃された分室はないのかね」


「無い。なぜ第七室が攻撃されたのか未だにわからない」


「ジム・ハモンドに会えないか」


 ジム・ハモンドはマンションに突入した戦術班で唯一生き残った人間である。


「会ってどうする」


 ブライアン・フロストは警戒した様子を見せた。


「確かめたいことがある。意識はあるのか」


「意識は回復したそうだ。それで何を聞きたいんだ」


「聞きたいというか、確かめたいことがあってね。第七分室の人間が彼の病室に行ったかどうか知りたいんだ」


「彼が、ジム・ハモンドが第七分室の情報を漏らしたと疑っているのか」


 眉をひそめた。


「いや、彼というより、彼に付いているかもしれない何かかな」


「何か? どういうことだ」


「ポーラ・リドゲードの部屋に魔術関係の本がたくさんあった。一番多かったのが、使い魔に関する本だ」


「それが、どうした」


「使い魔を、生き残ったジム・ハモンドに取り付かせた可能性がある」


「そんなことができるのか」


「可能だ」


「そうなのか」


 ブライアン・フロストは、シャロン・ザヤットの方を見た。


「使い魔に関して私は詳しくないけど、少なくても人間にそんな芸当はできないわ。使い魔なんて、召喚するだけで、ひと苦労だし、操れても短時間だけよ。でも、吸血鬼の場合は、持ってる魔力の量が違うから、長時間維持できるかもしれないわね」


 人間の尺度ではわからないわ。シャロン・ザヤットは付け加えた。


「感覚共有という魔術で、使い魔の五感を術者が共有することができる。入院中のジム・ハモンドの部屋に、小型の使い魔を潜ませておけば、様々な情報を収集することができる。たとえば、第七室所属のジム・ハモンドの知り合いが、見舞いに来た可能性も考えられる」


「その時に、第七分室の情報が漏れたのではと考えているんだな」


「毒ガスが蔓延した部屋で、ジム・ハモンドのみ、生き残ったことも引っかかる。使い魔をジム・ハモンドに潜ませておけば、ジム・ハモンドの行方を知ることができる。使い魔の位置を知るのは、感覚共有より、もっと簡単だ」


「わざと、生き残らせて、使い魔を取り付かせておいて、居場所を特定し、別の使い魔に、感覚共有だったか、情報収集をさせていたということか。それについてはこちらで調べておこう」


「私が調べた方が早いと思うがね」


「そういうわけには、いかないよ。第七分室が襲われた件で皆ぴりぴりしている。わかっているだろ」


 ブライアン・フロストはイーサンの首元を指さした。イーサンの首には銀色の首輪がかけられている。


「そういうことなら仕方ない。だが、急いだ方がいい。場所を特定するぐらいなら、多少距離が離れていても可能だが、使い魔と感覚共有するには、ある程度距離が近くなければできない。もし、私の推察通り、使い魔をジム・ハモンドに張り付かせているとしたら、ポーラ・リドゲードは、ジム・ハモンドの付近に潜んでいる可能性がある」

「それも、伝えておこう」


 苦々しい表情を見せた。


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登場人物紹介

イーサン・クロムウェル

九百年間、吸血鬼だった男

エドワード・ノールズ

イーサンの相棒

モーリス

イーサンの元相棒

ブライアン・フロスト

吸血鬼対策課第九分室課長

シャロン・ザヤット

分析係

トム・ターナー

ミグラス市警殺人課の刑事

ビル・カークランド

吸血鬼対策課戦術部隊

パメラ・モートン

調達部

ヒーゲル

戦術班

ジェフリー・グレン

レイヴァン・アスカル

ラリー・ジョイス

オーガス・タルンド

ギャングの下っ端

ジム・ハモンド

ポーラ・リドゲード

ポーラ、子供時代

ブレア・モリンズ

ポーラ・リドゲードを警察に通報した夫人

村の老人

デニー・ウィルソン

強盗

強盗

カーシー・キャラバン

テレーズ市強盗殺人課の刑事

店主

コルム市警総務課、課長

デニー・ウィルソン

子供時代

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