「お前さんらが出張ってくるとは、吸血鬼案件ってことなのか」
テレーズ市強盗殺人課の刑事、カーシー・キャラバンがいった。
イーサンとエドワードはテレーズ市警に来ていた。
「強盗だったら、お宅の若いのが全部殺しちまっただろう」
カーシー・キャラバンはエドワードの方を向いていった。
「そっちじゃなくて、行方不明の目撃者の方ですよ。いつの間にか消えていた奴」
「おう、客が一人消えたっていってたな。なるほどな、吸血鬼なら、コウモリに化けて姿をくらますなんてまねもできるよな」
「いくら吸血鬼でも、コウモリには、なれんよ。そもそも、人が急にコウモリなんかに化けたら目立つだろ。使われたのは、おそらく認識阻害の魔術だ」
「目の前に居る存在が認識できなくなる魔術だ。たとえば、道ですれ違った人間の顔をすべて覚えていたりしないだろう」
「認識阻害の魔法は、目の前に居る人間が、通行人レベルの印象しか残らなく魔術だ。つまり、あとで、顔や年齢を思い出そうとしても、すれ違った人間の顔や年齢を覚えていないのと同じように、思い出せなくなる。思い出せなくなるというより、覚えられなくなるの方が正しいかな。そういう魔法だ」
イーサンはカーシーの机に置いてあるペン立てから、一本ペンを取り出した。
「そんなわけが、あれ、どこいった。手で隠したのか」
エドワードは不思議そうな顔をした。イーサンの手には確かにペンがあった。
「お前さんには見えているのか、俺には、見えねえんだよ。ペンがあるような無いような、視点があわないような、距離感がつかめねぇっていうか、見えているだが、見えない。なんだか奇妙な感じだ」
「エドワードには、術をかけていない。カーシー、君にだけかけている。ペンという物の形状を一時的に忘れてもらっている。だから目の前にあっても、わからない。見えないということになる。今、君にかかった術を解こう」
「人間の魔力でも、この程度の大きさのものなら、見えなくすることは可能だ。ある程度魔術を学んだ吸血鬼なら、複数の人間に常時、自らの顔を人間の記憶に残らないようにすることなど、簡単なことだ」
「それを、行方不明の客がやった可能性があるってことか」
「いや、それ相応の魔力と魔術の心得があればできる。悪魔や精霊種、天使の連中も、使えるだろうが、存在自体が派手だから無理だろう。人間では、七人の人間に常時認識阻害の魔術をかけ続けるのは魔力的に無理だ」
「夜、であることから、吸血鬼が選択肢に入ってくるってわけか」
「なるほどな、それでわかったぜ。そいつが慌てて、とんずらこいた理由がよ。仮にそいつが吸血鬼だとして、目の前で吸血鬼対策課のバッジを見せられたら、そりゃあ、すぐに逃げ出したくなるってものよ」
その日の夜のことを思い出した。客を落ち着かせるために、警察だと、尻ポケットに入っていたバッジを見せた。その後、店長に話しかけている間に消えた。
「そいつが、吸血鬼だとして、吸血鬼に吸血鬼対策課のバッジを見せたんだろ。お前さん狙われないのかい」